「Levelling-up and Regeneration Bill : Reform to National Planning Policy」が協議中です(3月2日まで) (レベルアップおよび再生法案審議過程(その7))

上院へと移った「Levelling-up and Regeneration Bill (レベルアップおよび再生法案)」の審議ですが、2023年1月17日に「Second Reading(第二読会)」が行われ、現在、1月末頃からはじまると思われる委員会審議(修正案が1つずつ審議される)に向けて準備中です。委員会審議⇒報告ステージ⇒第三読会と進み、この春には裁可が下される、との段取りが想定されています。

 

実は昨年末のことですが、2022年12月22日に、これからの新しいイギリス都市計画システム構築に向けた提案が協議にかけられ、2023年3月2日の午後11時45分まで意見を受付け中なので、本日はこのことをとりあげます。「レベルアップおよび再生法案」には法定都市計画にかかわる要素も大小合わせていろいろ含まれているのですが、法案自体はそれにとどまらず、EU離脱後のイギリスのレベルアップを果たすべく地方自治体の組織再編を促すなどの大掛かりな内容がむしろメインの構成になっているため、「イギリスの都市計画システムを今後どのようにしようと考えているのか」を知るのはとても困難です。一方で、ボリス・ジョンソン首相時代に出された白書「Planning for the Future(2020.8)」は大胆な改革を提起しているものの抽象的・理念的なもので、いったいイギリスは実際上、どのように都市計画を改革しようとしているかについてとても見えにくくなっていました。

「Levelling-up and Regeneration Bill : Reform to National Planning Policy」は、標題こそ「Reform to National Planning Policy」となっていますが、その内容を読んでみると、新都市計画システムの提案(の骨格とそのスケジュール)といえるもので、「Levelling-up and Regeneration Bill」だけを見ていてもわからない、都市計画の側からの新システムの考え方を提案する内容になっています。そのポイントと思われる部分だけをかいつまんで整理してみます。正確に書くとややこしくなりそうなので、正確性よりも意味をつかみやすく書いてみます。

 

第一。法案の第86、87項(上院に送られた時点)の「National Development Management Policy(以下、NDMP)」が今回の提案の要の位置にあり、これまでの国の都市計画方針NPPF(National Planning Policy Framework)のうち、意思決定にかかわる国の方針を独立させてNDMPを法定化する。法案にわざわざその部分だけが書かれているのはこの「法定化」のためであり、逆にいうと、NPPFの方は法的拘束力があるわけではなく、個々の計画許可判断の際に材料として考慮すべきとされる(にすぎない)。NPPFは今後も残るが、(意思決定部分を抜きとった)Plan Makingのための指針として特化させる。

第二。このような重要性ゆえに、下院審議においてもNDMPは注目され、「そのように国の方針が強くなると、ローカルプランはその下に置かれて骨抜きになるのではないか」との危惧がさまざまな形で主張され、代案が出されて審議されたものの、政府は一貫して「そうではないんだ。この規定は、国の方針を明確にすることによって地方自治体の負担を減らし、ローカルプランの策定に伴う負担をやわらげるものなんだ」とその都度説明して、当初の法文は変えずに上院に送られた経緯があります(項ズレにより83,84項が86,87項になった)。

第三。第二の審議の過程で少しずつ政府の考えが示されてはいたものの、12月22日の協議書によってはじめて、トータルに、NDMPの意味・位置づけが明確になりました。それは、はじめて示された「今後のスケジュール」に最も明確にあらわれています。NPPFは2011年のローカリズム法ができた際に改革・新設されたもので、いわば「2010年代の都市計画方針」だったのに対して、2020年代は意思決定方針はNDMP、計画策定はNPPFを国の方針とする。現在審議中の「レベルアップおよび再生法」は2023年春には公布される予定なので、それを受けた新しい都市計画システムを準備し、2024年後半以降に新たな都市計画へと移行する。現在、95%の地域でローカルプランが策定されているとはいえ、5年以内に策定されたものは40%でしかなく、それ以外は(up-to-dateされた)有効な都市計画とはいえない。政府としては新たな都市計画システムのもとでの策定期間を30か月以内とするので、順次、常にup-to-dateされた有効なプランに置き換えていく。とはいえ移行期間が必要なので、2025年6月30日までは現行システムのもとで諸計画を提案することができる。そして、現行システムによって計画採択可能なのは2026年12月31日までである。一方、最近策定したばかりの計画をすぐに変えよとは言わない。「5年間有効」との観点からすると、現行システムで策定できる2026年12月に計画ができた場合でも、5年間経った2031年12月には新システムによる計画に移行していることが必要である(すなわちここまでにすべての地域で新都市計画システムに移行させる)。また、現在のSPDs(Supplamantary Planning Documents=法定都市計画を補完するデザインガイド等の非法定都市計画)はすべて廃止し、新システムでは「Supplamentary Plans」とする。

第四。今回の協議書は15章より成る長いもので、以上の「新システム」の提案は主として第9章より後の章で展開されています。第9章が「第三」でまとめた新システム移行スケジュールの提案、第10章がNDMPの中身の説明。第12章が「新都市計画システム」となるための各要素の改革内容の説明です。

 

と書いてみて、あえて直観的手ごたえを書きます。

第一。ボリス・ジョンソン首相時代に打ち上げた白書「Planning for the Future(2020.8)」での勢いは無くなり、ロジカルに「Plan Making」と「Decision Making」に国の方針を分ける、との形に落ち着いている。

第二。けれどもそれが本当に新しい都市計画といえるかどうかは定かでない。少なくとも今回示されたスケジュールによって「レベルアップおよび再生法」前の都市計画と「レベルアップおよび再生法」後の都市計画を形式的には分けられるので、2031年12月までに「新システムに移行」すると言えなくはない。実体的な部分において今後、そのようなスピードアップが意味あるものとして本当にできるのか(過去のシステム改革では常に言ったとおりにはならなかった)、広域調整の仕方が変更になって果たしてうまくいくか(過去のシステム改革では常に良いこともあれば不都合なこともあった)、過去から引き継いでいる「美」「place making」などが果たしてうまくいくか(これらは都市計画システムの変更だけで達成できるものとはあまり考えられない)。

第三。近隣計画はどうか。今回の法案でもその(改革というより)改善に向けたアイデアが盛り込まれているので、引き続き関心をもってフォローしていきたい。

第四。(都市計画システムを超えるが)今回の「レベルアップおよび再生法」の真の効果はいずこへ。現在「turmoil」と表現されるヨーロッパ情勢のうえに「ポストBrexit」や「ポストコロナ」も重なり、これからイギリスは、イギリスの都市計画はどうなっていくのか。

 

引き続き定点観測していきたいと思います。

 

[資料]

・(協議書)「Levelling-up and Regeneration Bill : Reform to National Planning Policy」

https://www.gov.uk/government/consultations/levelling-up-and-regeneration-bill-reforms-to-national-planning-policy/levelling-up-and-regeneration-bill-reforms-to-national-planning-policy

 

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