Levelling-up時代の近隣計画(その1) : 新システムへの移行イメージと諸課題

少し気が早いですが、現在国会審議中の「レベルアップ及び再生法」が2023年春に公布され、現在協議中の政府提案による新都市計画システムに移行した場合の、「近隣計画」について考えます。

2010年代の「ローカリズム」政策の目玉が「近隣計画」の創設をはじめとする「ローカル」の力の強化だった(←リーマンショック後の厳しい財政運営の中でローカルな主体自らが都市計画主体となって役割を果たすことを期待)とすると、2020年代の「レベルアップ」政策の目玉は国の政策の役割強化や広域自治体機能の強化にありそうです。とはいえ、2020年代にも「近隣計画」の位置づけそのものは大きくは変えず、1)2010年代の経験を踏まえて近隣計画の諸課題をできるだけ解決するべく努め、2) 「レベルアップ及び再生法」により変わる国の政策や上位計画との整合を保つ、といった調整を行うものととらえられます。以下、第一と第二で「レベルアップ及び再生法」による新システムを整理したあと、第三以降で、これまでの近隣計画の運用に伴う諸課題の所在を示します。それら諸課題がどうなっているかについては、(その2)以降にいくつかに分けて整理していきます。

 

第一。新都市計画システムでローカルプランに課される「5年以内のアップデート」は近隣計画には適用されず、単に、2025年6月30日までは現行のシステムによる近隣計画提案が認められ、2025年7月1日以降は「レベルアップ及び再生法」にもとづく新システムが適用される。

第二。「レベルアップ及び再生法」の付則7(Schedule7  Plan Making)の中に盛り込まれた「Neighbourhood priorities Statements」(近隣主要声明)が発効すると、投票を必要とするフルスペックの近隣計画とは別に、その近隣の計画主体(qualifying body)はこの声明を発することができ、地方自治体からそれが公表されたことをもって有効となる。簡易バージョンの近隣計画ともいえるこの声明には投票は必要とされないが、策定の前に関係者からのコメントを求め、それを踏まえて声明を作成するものとする。

 

第三。近隣計画はあくまで「策定できる」規定のため、どれくらい策定すれば法の趣旨に合っているかとか、どこでどれくらい策定すべきか、などといった基準のようなものは全くありません。また、「ローカリズム」政策をどうとらえるかによっても評価が異なるため、評価方法さえ明確でありません。とはいえ、法施行から10年強の経験を評価する必要はあります。「レベルアップ及び再生法」の結果からみれば、政府は「近隣計画は策定に時間がかかりすぎているので、フルスペックだけではなく簡易版の近隣計画が必要」と考えており、しかしながら、ローカルプランとは異なり5年以内にアップデートせよとは考えていない。いずれにしてもその前提として、近隣計画そのものは継続すべき都市計画と考えている。

第四。ローカルデモクラシーの基礎が組織として「parish」の形で既にあった非都市圏とは異なり、都市部、とりわけロンドンのような大都市部では計画策定主体として「フォーラム」を新設する必要があるほか、利害関係も輻輳しており合意形成が難しい。「近隣主要声明」の制度化によりいくらか解きほぐせる部分もあると考えられるものの、その「近隣主要声明」の効果やメリットがどのようになるか現時点では定かでない。

第五。近隣計画はそもそも「Development Plan」の一部となるもので、あくまで開発申請の許可判断の際に政策として考慮されるという位置づけにすぎない。従って、積極的にプロジェクトを実行しないと解決できない地域課題などには対処できない。実際の運用・実例の積み重ねの中で、近隣計画の本文とは別立てで「projects」を構想し別財源をとってきて近隣の価値向上に取り組む事例もみられるものの、本質的な「計画」としての限界がある。

第六。そのこことも関係するが、郊外部の保全を目的とする近隣では「近隣計画」は大いに馴染みメリットを感じられる一方で、インナーシティや老朽団地地区等には適合的でなく、どうしても地域的偏りができてしまう。

第七。さらにそれも関係するが、計画策定には専門的知識とリソースがどうしても必要なため、それらにアクセスしやすい近隣では策定がしやすく、逆の近隣では難しい。政府が支援策を用意したり専門家が支援を行うなどの対応もしてきたがそれにも限界がある。

第八。新たな課題として、近隣計画策定に着手したもののさまざまな理由から途中でうまくいかず、かといってやめるわけにもいかないような「宙ぶらりん」の近隣も増えているように思います。策定に要する時間が短縮されるばかりか長くなっているとのデータもあります。どうするのか。新システムへの移行時に、これらの交通整理の方向性も示す時期ではないか。

第九。地方自治体との関係。近隣計画に熱心な自治体もあれば無関心なものもある。第五~七とのからみもあるので、「熱心でないのはいけない」とは断定できないとはいえ、都市計画制度としてこれからも近隣計画を位置づけるのであれば一定レベル・一定フォーマットの対応があるべきではないか。

 

今後、第一・第二のような2020年代の新システムへの移行と合わせて、第三~第九の点についても、必要と思う範囲において考えてみたいと思います。

 

 

本記事を「【研究ノート】Levelling-up and Planning」に入れました。
https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/2022/05/18/100512