Levelling-up時代の近隣計画(その3) : ロンドンの全数とその動向など

(その2)で集計した全国(イングランド)の近隣計画に続いて、ロンドンの場合をみてみます。

表ではロンドンの2017.9時点と2022.9時点が比較できるようにしました。計画策定段階の区切り方や表示方法が全国とロンドンとでは異なり、また、ロンドンの2017年と2022年でも異なるため、計画策定段階がおよそ同じ欄におさまるようにしています。特に全国の値はあくまで参考値として示してあります。

(その1)(その2)とも関連させながら、重要と思われる点を整理します。

 

第一。ロンドンで近隣計画を策定する場合は、基本的に計画主体「フォーラム」を立ち上げる必要があり、既存のローカル組織が近隣計画策定主体となる地方部と比べて、計画策定がなかなか進捗しない傾向があります(「採択」率を同じ2022.9で比較すると、全国49.6%、ロンドン(「興味あり」除く)26/109=23.9%)。

それでも、2017.9年にロンドンで「採択」は5件だったものが5年後の2022.9に26件になっているので、ロンドンだけみればかなり採択までこぎつけているとも言える。1件1件にそれぞれ特徴があり、興味深い事例といえます。

第二。しかし、ロンドンで「その他」が2017⇒2022で18⇒33と大幅に増加したため、「エリア指定」から「採択」に至る普通のコースにおさまっている件数が76件と変わらない。このことは、この段階で既にロンドンでは近隣計画普及という観点から停滞している、あるいは飽和ぎみである、問題が発生している等の可能性が考えられる。76件だけ着目すれば次第に「採択」に向かっているようにも見えますが、それにしても時間がかなりかかっている。

第三。そこで、「その他」の内容が何かをみることが有用になる。下記「資料1」の力を借りてざっくり見てみると、大きく、「近隣計画エリアを指定したがフォーラムが立ち上がらない」「近隣計画策定中にフォーラムの有効期間5年が過ぎてしまいそのままになっている」の2つの場合が多いことがわかります。後者の場合、再申請によりフォーラム活動を継続している近隣も多いのですが、2022.9時点ではそうなっていない。再申請の意思がある場合もあると考えられますが、そのままとなるかもしれない。もしかすると、「近隣計画」にこだわらず既に別の道を歩んでいるかもしれない。とても困っているかもしれない。いずれにしても、数字のうえで「フォーラムなし」とカウントされたとすると、結局、前者にも後者にもフォーラムが無い。2022.9の33件の内訳をみると、「近隣計画エリアを指定したがフォーラムが立ち上がらない」が13件、「近隣計画策定中にフォーラムの有効期間5年が過ぎてしまいそのままになっている」が10件の計23件で、33件の69.7%を占めます。あと10件残りますが、ざっと見たところ理由はそれぞれで、近隣計画的なものを策定中だが法定計画からははずれているもの4件、申請した近隣計画エリアが分割されたなどの理由でイレギュラーなもの3件、計画策定が停滞ぎみの「その他」1件、エリア無しでフォーラムだけあるケース1件などです。

第四。第三の「その他」は個別的ではありますが、近隣計画の課題や可能性、新しい都市計画システムに移行する際のヒントや解決を要すべき点などが含まれていると直観します。たとえば「近隣計画」ではない都市計画でカバーしようとしているケース、「近隣計画」にこだわらずに別の道に移行しているケースなどをつぶさにみていくと、ダイナミックな都市計画マネジメントの方向も見えてくる可能性がありそうです。

第五。さらに、今後、「レヘルアップ及び再生法」に盛り込まれている「Neighbourhood Priorities Statements(近隣主要声明)」(⇒下段※注1)にまずは落とし込んでおくことなども考えられます。「Street Votes」(⇒下段※注2)という仕組みも新法に盛り込まれているので、ストリートマネジメント的な観点から、主要街路に沿った区域を抜き出して新しい都市計画を使うことも考えられます。

第六。それとは別に、「近隣計画エリアを指定したがフォーラムが立ち上がらない」「近隣計画策定中にフォーラムの有効期間5年が過ぎてしまいそのままになっている」ような場合、「やめる」手続きを明確にすることも必要と考えられます。2011年のLocalism Actには「やめる」手続きも規定はされていますが、実際上、都市計画を「やめる」のは簡単ではないので、「やめやすい」方法を明確にする。けれども積極的にやめるだけの方向を強化するというよりも、そうなった場合(できればそうなりそうな場合/そうならないよう/適切なマネジメントができるよう)に「テコ入れする」「別の方法に乗り換える」「新しい都市計画を適用する」「やめる」などのオプションが明確になると、地域の実情に合った流れができてくるのではないかと想像します。

 

[資料1] 下記ページ。「Our Reports」欄の上から4つ目。「DESIGNATION DECISIONS」(2021.2発行)。このHPはロンドンの近隣計画について詳しく、本記事の表もこのHP資料に基づく。2017年の数字は当時ダウンロードしたものによる。

https://www.neighbourhoodplanners.london/resources

 

本記事を「【研究ノート】Levelling-up and Planning」に入れました。
https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/2022/05/18/100512

※注1 上記【研究ノート】■Levelling-up時代の近隣計画「その1」へ

※注2 上記【研究ノート】■レベルアップおよび再生法案審議過程「その5」へ