上院「報告ステージ」が7月11日にスタートします (レベルアップおよび再生法案審議過程(その11)) [2023.9.19更新]

上院委員会審議が終了してからほぼ1か月が経ち、このほど、次の手続きである「報告ステージ」が7月11日にスタートすることが示されました。それに向けて次々と修正案が提出され、段階的にまとめられ公表されています。「報告ステージ」スタートまでまだ2~3週間あるので、さらに修正案は増えていくと思われます。

委員会ステージにおける修正案の例として、(その9)で紹介した「Healthy Homes」については委員会ステージで採決されず、形を変えて既に「報告ステージ」で審議される修正案として公表されています。委員会で審議されたときは「Healthy Homes」に関する規定をすべて法律本文で書ききる形でしたが、「報告ステージ」での修正案は、法律本文では「Secretary State’s duty to promote healthy homes and neighbourhoods」の骨格のみを規定しておき、具体的内容は付則(付則11のあとに付則11Aを起こす)に回しています。規定のレベルを1ランク落とすことで、なんとか「報告ステージ」において盛り込まれることを目指しているものと思われます。

現時点(6月23日)で、「報告ステージ」の日程は7.11と7.13の2日間。以下、追加された日程を付け加えつつ、審議の様子をリンクしていきます。

 

2023.7.11火 
Parliament.tv House of Lords (day1 : 15時24分頃より)
審議に入る前、会議の冒頭で、1)下院の審議後に法案が膨れ上がり、事実上上院での審議がはじめてとなってしまった部分が大きいのは問題ではないか、2)さらに上院委員会審議のあと本日の「報告ステージ」がはじまる直前になって政府側からまた新たな修正案が大量に加えられたのもまた問題ではないかとの指摘がありました。これは、(その4)で紹介した「場所とり条項」の多用とも関連していると思われます。法案が十分検討されないまま国会に上程される結果「とりあえずここにこんな感じの条文が入る」という状態で中身の薄い議論が1院目(ここでは下院)でなされて、最終案となるまでにどんどん内容が追加されてしまい、2院目(ここでは上院)ではじめての実質審議が多くなり(1))、そういうこともあってどんどん後の方で政府からの修正案が入ってくる(2))。今回の「レベルアップ及び再生法案」はとても複雑なのでそういう風になることには一定の理解を示しつつ、このような国会運営では問題ではないかとのクギを刺したものと理解しました。

2023.7.13木
Parliament.tv House of Lords (day2 : 11時52分頃より)
この日、「(問題のある)BIDについて本法律ができた日から6か月以内に政府は点検(review)を行う」という内容の修正案64番が審議されたあと取り下げられました。提案者は、よく知っているロンドンのとある事例では、地域住民がBIDの運営から除外されており、とても民主的な制度とはいえないと述べましたが、政府側は答弁で、法律的には地域住民を排除するとの規定はなく、事実、他の事例で地域住民も運営に加わっている事例もあること、従って、こうした課題については法案の修正という形ではなく別の方法によって模索していきたいので、修正案64番を取り下げてほしいとしました。これを受けて、提案者は修正案64番は取り下げますと述べています。なお、この段階(報告ステージ)の修正案では、「法の成立後〇〇か月以内に〇〇を検討する」という内容のものが目立ちます。何もしないと法律の趣旨とおりに実行されずに(しばらく)放置されそうな場合に修正案として法律の中で書き込んでおくのが目的のようです。それらのうちどれくらいが実際に取り込まれるのかは結果を照らし合わせないとわからないのですが。

2023.7.18火 [6/29追加]
Parliament.tv House of Lords (day3 : 15時48分頃より)
この日は修正案67番から145番まで審議されました。最後の場面で修正案140-145番が採択されていたので、そこだけ注目して紹介します。これらは政府側からの修正案で、法律構成上の変更がその内容です。環境アセスメントの法令に関するもので、法案では本文に細かく書き込みすぎていた部分を「付則12」のあとにもってくる、というものでした。かなり形式的なものであるため、大きな議論はなくOKとなりました。

2023.7.20木 [6/29追加]
Parliament.tv House of Lords (day4 : 12時36分頃より)
この日は昼過ぎの早い時間帯に審議がはじまりましたが、40分ほどで散会となりました。修正案146番から163番まで審議されました。4日間の審議で316件の修正案の半分強が審議されたことになります。

 ~このあと、長い夏休みとなる~

2023.9.4月 [7/14追加]
Parliament.tv House of Lords (day5 : 15時34分頃より)
長い休みの期間が終わり、「報告ステージ」が再開されました。修正案192番まで進みました。最後のほうで「Healthy Homes」関連の修正案191Aと191Bが審議され、いずれも認められたようです。特に191Aについては採決があり、158対149で採択されたようです。6日に審議される修正案193以降の現状をまとめたリストはここから(修正案は317番まである)。

2023.9.6水 [7/14追加]
Parliament.tv House of Lords (day6 : 最初~13時44分まで/17時14分頃より)
午前にはじまったセッションと、別件の議事のあと夕刻にはじまったセッションにより、修正案224番まで審議されました。1件1件の議論が興味深く、いくつかの修正案は採決されました。だいたいは僅差で「保守」v「その他」のどちらかが上回っていましたが、修正案195だけはLDem(自由民主党)が投票せず大差で否決されました。イギリスらしさで印象に残ったのは、「swift brick(レンガの中が空洞になっておりツバメの巣になる)」をすべての住宅に義務付けるとの修正案について真剣に議論され、最後に政務次官が「私もツバメを愛する気持ちをもっているのだけど」としつつも、こういう規定は国の法律で決めるものではなく各自治体で考えてほしい、従ってこの修正案は取り上げてほしいとし、提案者により取り下げられました。この日の議論は、住宅のあり方や自然との共生(ツバメの巣の提案もそのひとつ)、自転車道整備などの、現在日本でも重要と思われるテーマをめぐるものでした。9月4日のday5もそうだったのですが、これまでの保守政権による都市政策・都市計画のほころびを乗り超えようとする重要なテーマが審議されています。既に政策上は転換を宣言しているものも含まれますが、新たな観点から法律の中に規定することで世の中が変わる。「レベルアップおよび再生法案」の審議も大詰めになってきたなかで、そこまで規定するかギリギリ採択されないか、といういわば「エッジ」の切り取り方を1つ1つ判定しているように感じました。

2023.9.13水 [7/19追加]
Parliament.tv House of Lords (day7 : 最初~13時49分まで/15時46分頃より)
「報告ステージ」以下の修正案集にもとづき258番まで審議されました。
HL Bill 142—VII (parliament.uk) (9月11日公開)
最終日だと思っていたらまだ先はかなりあり、ほぼ当日にさらに1日つけ加えられました。今度こそ終わりまでいくのでしょうか。中継を見ていても急いでいる様子はまったくなく、答弁している政務次官も一度、まだペーパーがあるのに一度座ってしまい、座が「あれっ」という雰囲気になったので気づいて、「すみません。まだ1ページありました」と続きを読み上げはじめる。と、議員からは暖かい失笑が、、、などということもありました。そういう意味では最終盤に近づいてきて、共に立場を超えて1つの重要法案をつくりあげてきたんだというような連帯感のようなものを感じました。

 

2023.9.18月 [9/13追加]
Parliament.tv House of Lords (day8 : 15時54分頃より)
「報告ステージ」最終日。最後までたどりつきました。「第三読会(third reading)」の日程が9月21日と決まりました。

 

 

[資料]「報告ステージ」で審議する修正案集

・7/7に明らかになった316の修正案
https://bills.parliament.uk/publications/52159/documents/3790
(この中で、上記の「Healthy Homes」に関する修正案は、「法律本文では「Secretary State’s duty to promote healthy homes and neighbourhoods」の骨格のみを規定しておき」については修正案218番、「具体的内容は付則(付則11のあとに付則11Aを起こす)に」については修正案234番となっています。)