『万物の黎明 人類史を根本からくつがえす』(都市は進化する190)

週間東洋経済の11月25日号に書評が出ているのを見て(今朝の日経新聞書評にも出ている)、これは面白そうだと読むことに。人類学者(デヴィッド・グレーバー)と考古学者(デヴィッド・ウェングロウ)の共著作品。光文社、2023.9.30刊。酒井隆史訳。

 

読んでみた率直な感想は本書の意図とはかなりずれたところにありますが、絞りに絞って4点書きます。

第一。人類が集住することの古代から17世紀頃までの人類学的・考古学的成果そのものが面白かったです。あくまで著者の視点からの見取図ではありますが。

第二。特に、本ブログ的には、「都市」の成立のとらえかたが、自らの課題となりました。農耕→生産余剰→支配者の登場という従来型のとらえかたではない本書の解説が、どの程度人類史をくつがえしうるか。お話としては興味深く、特に、トルコ中央部のチャタルホユックについて少し掘り下げてみたい。(ウクライナなどにみられる「メガサイト」もかなり興味が湧きます。集住形態として。)

第三。ストーンヘンジについては本ブログでも取り上げていますが、こうした巨石文化などの人類学的解釈が新しい研究成果として書かれていました。『ストーンヘンジ  巨石文化の歴史と謎』(筑摩選書、2023.1.15刊)を読んだものの「謎」のままなので、合わせ読んでもう少しわかりたいと思います。

第四。今は亡きデヴィッド・グレーバーがロンドン大学LSE教授をつとめていたこと。ふと、LSE地理学科の廊下にチャールズ・ブースのロンドン貧困街調査Mapが掲示されているのを思い出しました。地道な研究成果から「人類史を根本からくつがえす」仮説構築までの幅広い活動が大学の魅力だし、社会がなぜ閉塞してしまったのかと何度も何度も嘆く著者がこうして著作を通して自らの仮説を世に問うていることそのものが最大の実践的成果だと感じるところです。(グレーバー亡きあとウェングロウが最後にとりまとめて刊行された)

 

人類の不平等の起源や不平等化のメカニズムの解明などが昨今の流行のようになっているなか、p146-148にかけての「平等主義的社会」に関する著者の考えについては最も共感できるところでした。さらにこのあたりを発展させた「次作」が読めないのはとても残念です。