焦土からの再生 戦災復興はいかに成し得たか

井上亮著、新潮社2012.5.20刊。
「都市計画研究者による戦災復興に関する優れた研究書も少なからず出版はされているが、専門書であるだけに国民の間で広く読まれることはなかった」(はじめに、p3)、「この誇るべき戦災復興の歴史が忘れられている」(同、p2)などの思いから、2011年8月に日本経済新聞に連載された記事をもとに図書としてまとめられたものです。その骨格は『復興計画』(越澤明著、中公新書1808、2005)に沿っていて、日経新聞書評(2012.6.17)や『波』(2012.6号書評)もだいたいそのようなトーンからか書かれているため、ここでは、「都市イノベーション読本2.0」の最初の記事としてこれらとは別の観点から、戦災復興を描くということの意味について記してみます。
1)何からの/何のための復興か?:震災復興とは異なり、戦災復興においては「何からの」復興なのか、「何のための」復興なのかが設定しづらく、それが「戦災復興の歴史が忘れられている」要因の1つかと思われます。木造都市は延焼しやすかったから不燃化しましょう、といったテクニカルな側面を超えたところが重要だと思います。歴史の捉え方そのものに近くなるため難しいテーマだと思います。2)各都市の戦災復興で評価される点が何だったのかを、ローカルな視点から浮かび上がらせ情報共有することが大切です。3)復興院の作成した「基準」の意味。これは、1)と2)とのハザマの課題だと思います。4)戦災復興の評価を、何に対してするか。理想論に対する不足に注目するのか、現実論の達成率なのか。実際にはそうした機械的なものというより、1)と2)と3)を合わせたものではないかと思います。5)現在でも未施行の戦災復興都市計画がかなりありますが、これをどうとらえるか。本書でその象徴として描いている‘マッカーサー道路’もその1つですが、これらは「未完の戦後」の証でもあります。
本書は主に2)を復興計画・事業に携わった官僚の視点から、4)をジャーナリストの視点も入れながら考察したものととらえられます。1)についてもいくらか書かれていますが、最もドキッとさせられたのは、関東大震災から60年の1983年8月30日に昭和天皇が語ったとされる、震災復興をもっとしっかり行っていれば東京の戦災被害は非常に軽かったのではといった主旨の発言です(別の文献からの引用の形)。これは、新聞社で皇室も担当している著者ならではの着眼点です。
現在進行中の東日本大震災からの復興。それぞれの都市・地域で語り継がれ大切にされ誇りに思える何かを残すことの重要性について考えさせられる1冊でした。