極北

マーセル・セロー著(村上春樹訳)、中央公論新社、2012.4.10刊。原文は2009年。
働きの良い者は抜擢されて「ゾーン」と呼ばれる場所での仕事が与えられる。その仕事とは、、、
都市イノベーション読本としてはじめて取り上げる「小説」。極北(シベリア)の町や村、都市が舞台です。主人公の暮らす町に何かがあったらしいという手探り状態からはじまり、極北という広大な地域をめぐるさまざまな生き方相互の関係や葛藤などが描かれ、やがて読者は何か大きなカタストロフィーのようなものがあったのではないかと思いはじめ、そして「ゾーン」の中に引き込まれていくとのストーリーです。イノベーションとは真逆の内容ともいえなくもないのですが、そこをくぐり抜けて生きようとする主人公から強いメッセージは伝わってきます。
『ありえないことが現実になるとき 賢明な破局論にむけて』(ジャン=ピエール・デュピュイ著(2002)、桑田・本田訳、筑摩書房2012.5.10刊)は、リスクは管理できるとの前提を否定しつつ、カタストロフィーは必ず起こるとの視点から破局に向き合う人間の姿勢を哲学的に考察した図書。
『歴史のなかの大地動乱 奈良・平安の地震天皇』(保立道久著、岩波新書1381、2012.8.21刊)は、当時絶えなかった大地動乱(カタストロフィー)に為政者たちはどのように対処したかをめぐる論考です。
小説、哲学書、論考という形式の違いはありますが、私たちがこれから必ず遭遇することになる未知のさまざまなカタストロフィーにどのように対処すべきか、そのようなことが起こる前にできること・できないことは何なのかについて考えさせられる良書です。