『発展する地域 衰退する地域』(文庫版)

大西隆先生が1月11日の日経新聞「今を読み解く」に「提案は基本的であり、刺激的でもある」と紹介していたジェイン・ジェイコブズのこの本をさっそく読んでみました。ちくま学芸文庫2012刊。
なかなかジェイコブズらしく面白い内容です。文庫版では副題も「地域が自立するための経済学」とされ、単行本で『都市の経済学−発展と衰退のダイナミクス』とされていたタイトル(1986年刊)が今風に翻訳され直されて、とっつきやすくなっています。
既にいろいろな解説があると思うので、本ブログ的視点でこれは面白いと感じた点を4つあげます。
第一。国の富ではなく都市の富の蓄積(あるいは喪失)のメカニズムをリアルに描いていること。原文のタイトル「CITIES AND THE WEALTH OF NATIONS」(1984)がそれを物語っています。都市を単位に(主体に)世界を考えることは本ブログの核心的テーマであるという点で、ある意味、本書すべてが貴重な論考です。
第二。「貴重」というとき、では本書の内容が本当かどうかを問うとすると、文庫本の「解説」で経済学者の塩沢由典氏はジェイコブズの議論はなかなか経済学的に実証するのが難しく(そもそも一般には相手にされず)、経済学の研究を志す方にはジェイコブズの考えを理論的・実証的に展開することをぜひ目指してほしいと訴えていますが、たとえば本書で最も重要な概念である「都市地域」も定義がほとんど無いため、本当かどうかを問うこと自体が不可能ではないかと思われます。むしろ本書でよく出てくる「インプロビゼーション」そのものが、本書を楽しみ自らの糧とする秘訣と思われます。それを大西氏は「刺激的」と表現しているように思います。
第三。なんといっても、都市間で創発し相互に進化していくさまの描写が群を抜いてワクワクします。東京の進化過程で都市地域に組み込まれていく“シノハタ”の話(ロナルド・ドーアの著作からの引用)もかなりおもしろいですが、都市と都市、あるいは都市が群として創発しながら進化していくさまは、「この人はどうやってそのような理解・表現にたどりついたのだろうか」と驚愕させられる類の内容です。ほんの1例ですが、ジャック・アタリが資本主義世界で2番目の「中心都市」としてあげたベネチアが、いかにコンスタンチノープルのおかげで成長できたかの記述だけでも凄みを感じます。逆にこうした目でアタリの記述を読み返すと、なぜベネチアが成長できたかの別次元の要素がちゃんと書かれていることが確認できます。
第四。終章の「漂流」の議論。これはあまりにも重要でおもしろい議論であるため、あえて書くのをやめておきます!

[関連記事]
・第一の点関連
「THE EVOLUTION OF GREAT WORLD CITIES」(都市イノベーション読本 第74話)
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20121218/1355812601
・第三の点関連
「21世紀の歴史」(都市イノベーション読本 第9話)
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20110816/1313464730
ジェイン・ジェイコブス
都市イノベーション読本 第4話 第5話 第6話 第17話