ドバイ開墾(10) : ドバイゼーション

これまでみてきたドバイの都市開発を、「ドバイゼーション」と呼び世界中の「ドバイゼーション」を観察している学者がいます(UAE大学のYasser Elsheshtawy准教授。URLはdubaization.com)。ただし、定義のようなものは無いようで、むしろ「これはドバイゼーションだ」と言った側がドバイの何か〜例えば、とても高い、贅沢、巨大開発、短期間での開発、エマール等ドバイ関係者の関与など〜をそのように表現しているようにみえます。
一例をあげると、今春発表されたカイロ東方の新首都計画は、砂漠の中の700平方キロほどを開発して500万人が暮らす大都市を5〜7年間で建設し、もって、今後も人口集中が避けられないカイロの混雑を緩和ようとするもので、「第2のドバイ」などという解説もみられます。しかし、まだ打ち上げられたばかりのビジョンということもあり、本当にできるのか、意図通りに(普通の)人は住みつくのか、等々の懐疑論も出ているようです。
『Worlding Cities』(⇒関連記事)では、シンガポールがアジアの都市「モデル」として普及していくさまを描いているのに対して、ドバイは香港やバンクーバーなどとともに「Inter-Referencing」の部分で論じられています。ドバイに限るならば、見た目の参照はできるとしても、その背後には、都市開発に伴い退去させられる人々や多くの幻滅があるのだとの指摘も。

ここでは「ドバイゼーション」という言葉にこだわらず、都市開発モデルとされたシンガポールとドバイの共通点と相違点を比較して「ドバイ開墾」の結びとします。

いずれも強い政府が主導し、やがて民間を巻き込んで、世界で勝負できる価値を備えた都市を短期間につくること、が共通点といえそうですが、ドバイの特徴が浮き上がるように相違点を抽出すると、以下のとおりです。
シンガポールは、工業化と貿易・郊外地形成を通して経済を発展させ、国民が住宅を購入することで自らも中産階級化するとともに国の経済発展の両輪ともなるという、一般戦後モデルの徹底形。ゆえに今後は国民高齢化対応などが課題化。やや極端な形ではありますが、これまで「近代化」として認識されてきた一般形です。
ドバイは、石油という(偶然の)資源を起動力として自由寛容政策で外資と外国人を導入し(場を与え)、インフラ・不動産開発を通して経済システムを構築。国民は人口の1割程度しかおらず、建設作業員からお雇い専門家まで含めた多様な外国人労働者が人口の9割を占める出稼ぎ都市。一時滞留都市。世界に開放される都市。ただし、「出稼ぎ」「一時滞留」とはいえかなり長期間暮らす人々も多く、むしろ「多国籍都市」。良い意味で、別の国に暮らしながら国籍はそのままでよいとされる自由寛容都市。「国」という枠を超えるはじめての実験グローバル都市。(「国」という枠さえ、首長国連邦であることから既に超えている。)

奇抜な大規模プロジェクトだけに目を奪われることなく、これからも「世界の要」ドバイに注目していきたいと思います。
〈ドバイ開墾・結〉

[関連記事]
・Worlding Cities (都市イノベーション読本 第93話)
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20130507/1367897544