『里海資本論』

角川新書2015.7.10刊。井上恭介(NHK「里海」取材班)著。
里海とは、「人間の暮らしの営みの中で多年の間、多様に利用されていながら、逆に、そのことによって自然の循環・再生が保たれ、しかも生物多様性が増加しているような海」と理解した藻谷浩介氏が解説するこの本。新書ではありますが、本年度出版された図書の中で(自分としては)最も、これからの日本の都市や地域のありかたを考えるうえで勇気を与えられた本の1つです。
「ローカルからの発想が日本を変える、世界を変える。」とのテーマでこの10月からはじめた本年度の『地域創造論』で里海についてもとりあげ、今週月曜日に、統合的海洋教育・研究センター長のN先生に、「里海」「SATOUMI」の経緯・現状・可能性についてレクチャーしていただきました。『里海資本論』が瀬戸内海を舞台にしているのに対して、レクチャーでは東京湾が舞台。ちょうど1964年のオリンピックの頃を境に「里海」が埋め立てられきわめて小さなエリアへと縮小していった様子をbefore/afterで確認し、改めて、21世紀や22世紀の都市の課題は何なのかという、大きな、しかしながら取り組みがいのある課題を与えられたのでした。
なかでも、いまでこそ「SATOUMI」なる横文字が成り立つようになってきたとはいえ、少し前までは、「人間の暮らしの営みの中で多年の間、多様に利用されていながら、逆に、そのことによって自然の循環・再生が保たれ」などという発想は(西洋中心の)世界ではまったく受け入れられなかったことを専門家のN先生から聞かされ、こうしたテーマを都市の側でもしっかり追及していくことが大切なことを改めて認識できました。