都市計画マスタープランと近隣計画の2層構造がみえてきたウインザー

日本の各地で現在、人口減少時代の都市計画として「立地適正化計画」の策定が進んでいます。「立地適正化計画」は都市計画マスタープランの一部とされますが、都市内部の各近隣が主体となってまちづくりを行い、かつ、都市全体のマネジメントも行うようなイメージではありません。
近隣計画を制度化したあとの1つの到達点として、都市内のすべての近隣において主体的にまちづくりに取り組む姿が考えられます。これまで本ブログではロンドンのウエストミンスター区をそれに近い形としてウォッチしてきましたが、もう1つ、日本人も必ず観光に訪れるロンドン近郊のウインザーでほぼその形が見えてきているので取り上げてみます。
正式名称は、Royal Boruough of Windsor & Maidenhead。11の近隣計画策定が進み、既にAscot, Sunninghill & Sunningdaleでは近隣計画が策定済みです。1ヶ所だけ近隣計画に着手していない場所がありますが(Cookham)、ここでも既に「Cookham Village Design Statement」を都市計画マスタープランを補完する「補完計画書(Supplementary Planning Document)」として運用しているので、近隣計画に準じる計画があるとみなしておきます。

さて、既に近隣計画の運用については多くの事例をみてきたので、ここでは近隣計画が積みあがるとどのような「都市計画マスタープランと近隣計画の2層構造」の都市計画システムができあがるかの概要をみてみます。
第一。新しい都市計画マスタープラン(Local Plan)の策定が並行して進んでいて、2016年中にその案の段階に至る予定です。
第二。11の近隣計画策定区域のうち8ヶ所はパリッシュが計画主体。この場合構成パリッシュ数は1つとは限らず、2つ(Horton & Wraysbury、他)、4つ(Hurley & the Walthams)の場合もみられます。これら8つの計画区域は田園地帯に位置します。逆にいうと、残り3つはウインザーのような観光地や市街地部。うち、最も中心部のセントラルウインザーはビジネスフォーラムが計画主体のビジネス近隣計画。その隣のウインザーはフォーラムが主体となる一般の近隣計画。残りのMaidenhead & Cox Greenはタウンフォーラム(Maidenhead側)とパリッシュ(Cox Green側)のジョイントによる近隣計画をめざしています。他都市においても、もし市域全体をカバーする場合にはこのような姿があらわれそうです。
第三。やはり都市計画マスタープランとしてはその基本となるローカルプランが重要です。策定中の新マスタープランにおいても、たいへん念入りに(プロセス)、かつ技術的に(コンテンツ)計画策定作業が進んでいる様子がつかめます。日本の立地適正化計画的要素もこの計画プロセスの中にビルトインされていると感じます。
第四。それでは都市全体のマスープランと近隣計画との関係はどのようにとらえられているかというと、基本的には、2011年Localism Actにより近隣計画が定められるようになったことから、近隣が望むなら行政もお手伝いしましょう、とのスタンスです。とはいえ、Royal Boruough of Windsor & Maidenheadは近隣計画というプロジェクトに対しては“先頭に立つ自治体”と自称していることから、また、事実、既にほぼ全区域が近隣計画区域となっていることから、この都市計画ツールに大きな魅力を感じて新しい都市計画システムに積極的に移行しようとしているのではないかと思われます。
第五。なお、近隣計画策定には国からの助成が出ます。自治体では、各近隣計画エリアに担当者を決めて、さまざまな支援を行っている様子がホームページからみてとれます。
第六。やはり、地域側が主体となって近隣計画を策定してエリアマネジメントにかかわりつつ、都市計画マスタープランを通して持続的な都市マネジメントを行うという、良い意味での補完関係が築けると、お互いにチェックしたり協力したりしながら、持続的な地域運営ができるものと思われます。先行して運用段階に入ったAscot, Sunninghill & Sunningdaleでは、「Policy」に載せられない重要事項を「Project」として位置付け、自治体や事業者とも協力しながら、近隣計画の実現に向けた活動を行っています。

[参考]
Localism and Planning (イギリス最新都市計画統合ファイル)