成立したばかりの「Housing and Planning Act 2016」145条がさっそく問題になっています

雑誌Planningの6月17日号が届きました。EU離脱が決まる前の時点での特集のような内容が多く、都市計画への影響を論じたものとしてそれなりに興味をもてるのですが、ふと、危なげな別の記事が強調されていることに気づきました。
本ブログでも2度ほど「Housing and Planning Act 2016」(当時はBill)のことを取り上げてきましたが(参考記事1,2)、そこで話題になっていた97,99,100条(法案提出時)ではなく、98条(同。法律では145条)が話題になっています。やや複雑かつマニアックかもしれませんが、都市計画法的には重要な部分ですので、全体像をわかりやすく解説します。

本年5月12日に公布された「Housing and Planning Act 2016」(参考資料)のうち5月26日に施行された145条(法案提出時98条)は、大臣の新たな介入権限を規定しています。そのうち第5項が問題になっています。
バーミンガム市では新しいローカルプランを策定中で、第三者による審査も終え(インスペクターレポート受領)、さて採択の手続きを、と思ったちょうどそのタイミングで新法の145条が施行され、第5項を使って、大臣より「その手続き、待った」、との命令が届きました。
大臣は、
「he may direct the authority not to take any step in connection with the adoption of the document」
とすることができるのです。しかもいつまでかというと今回は(b)号の、
「until the direction is withdrawn」
と、命令が取り下げられるまで待たなければなりません。

そもそもこの問題は、バーミンガム市のグリーンベルト上に6000戸の開発を認めるもので、大きな問題となっていました。直接的には、地元国会議員が大臣に働きかけてこのパワーを使わせたということで、「そんなことやられたら、都市計画は政治に翻弄されてメチャクチャじゃないの」という危惧・疑問が「Planning」の記事の第一の論点です。しかもバーミンガム市としては第三者審査も受けており、それを担当したインスペクターも、バーミンガム市には膨大な住宅需要があるのでグリーンベルト上の開発は(本来は良いとはいえないが)やむを得ないと判断していて、適正な手続きしていたはずなのに新法によって待ったがかかった状態です。
実をいうと、この地元選出国会議員は第三者審査の過程においても「ちゃんとした住民参加をしていない」「オレがなんとか阻止してやる」(やや意訳なのでごめんなさい)、などと言っていたとされ、本年1月の国会審議においても「グリーンベルトに6000戸などと言う前に、8〜10年のモラトリアム期間を設けてバーミンガムじゅうの土地をさがすべきだ」と主張していたとのこと。
第二の問題としては、そもそもこの法律の趣旨は、なかなか住宅開発を受け入れない自治体に対してなんとか言うことをきかせようとしていくつもの大臣権限を付加したものであることを考えると、(せっかく開発しようと計画しているものに待ったをかけるなどということは)逆効果ではないかという論点が書かれています。(ただしグリーンベルト上を開発することも国の政策に反するので大臣としては苦しい立場なのですが、、)
第三に、このように上からの政治が出てくると、地元では萎縮してしまいイノベイティブな都市計画ができなくなるおそれがあるというものです。

さて、この介入。大臣命令はいつ、どのような形で取り下げられるのでしょうか。

[参考記事]
(1)http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20151116/1447670125
(2)http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20160502/1462177268

[参考資料]下方に「法」があり、その下に「法案」がアーカイブ化されています。
http://services.parliament.uk/bills/2015-16/housingandplanning.html