まだ近代的な意味での「国」という単位が無かった頃、自立した「都市」が主役となって、交易を通してwin-winの関係を構築。その交易の真髄とは、A地域に無いけれどもB地域では自分で消費する以上に産出するものをA地域に持っていき喜んでもらうこと(で商売になること)。逆の流れもできればなおよい。これに、AとBを媒介するCが加わることで、AもBもCも繁栄する。ハンザはこれらのうち特にCの働きをする開港自由都市です。
「北海とバルト海からなる海域は、北方における地中海の役割を果たしている。」という文章ではじまる本書は、5世紀にもわたり繁栄を誇り最盛期には200を数えた自由都市間の商業をベースとする強い結びつきを特徴としたハンザについて体系的にまとめられた書です。
みすず書房、2016.12.20刊。フィリップ・ドランジェ著、高橋理監訳。
いくつか興味深い点をあげると、
第一。商売上の「自由」を侵害されそうになった時のハンザの防御手段。基本的にはAが欲しがっている商品を流通させないという経済制裁。税をかけようとする都市(権力)への対抗手段としても、武力で迫ってくる相手に対しても、もかなり有効だったようです。
第二。4箇所の「商館」。いわば、大きな市場の窓口になる都市に置かれていた取引所のような場所で、ノブゴロド、ベルゲン、ブルッへ(ブリュージュ)、ロンドンの4箇所に置かれていました。ただしこの見方はハンザ側からの説明で(本書の目的)、商館の置かれた都市側から歴史を描けばまったくストーリーは違ったものになるはずです。とりわけ既に「City of London Corporation」の形で自治都市化していたロンドンとの関係には興味が湧きます。
第三。「都市」中心の自発的結びつきの崩壊には、「国」を中心とし国内の都市活動を保護しようとする近代化への動きがからんでいたこと。「国」の力のもとで船は大型化し、軍事力は増強され、市場は広域化してもはや地中海や北海・バルト海では勝負できなくなるグローバルネットワークへと拡大されました。
第四。ついていけなくなったブルッへなどではかえって、当時の栄華がそのまま建物や運河の形で残って今日の「世界遺産」などになっていること。ハンザのリーダーだったリューベックなどにもある程度同じことがいえるかもしれません。
本書全体の「要約」については、この書を読むきっかけとなった2017.2.12の読売新聞書評で。
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