「隣町に市街地拡張する」提案をわざわざする訳

さきほど手にしたPlanning2017.10.20号の巻頭言に、「いくらかの自治体では隣の芝生に(わざわざ)タンクを置くことにメリットがあるかもしれない」との短文が書かれていました。

日本の都市計画。「コンパクトシティ」という政策にも促されて(実際には経済活動が引っ張って)、開発を進めようとする側と、アメニティを壊されまいと反対する近隣住民が対立するケースが多々あります。

この記事では、ロンドン西郊のスラウという自治体が(Slough Borough Council)、街の北側を拡張して1万戸の住宅を供給する計画を「先週」発表した、という内容です(⇒関連資料)。その土地がスラウの行政区域内ではなく、北接する自治体の土地であることから、「なんでそんなことするのか!」と言われてたいへんなことになると想像しがちではあるけれども、「いや、待てよ。わざわざそんなことをするのだから、それなりの理由があるでしょう」。では、「それなりの理由」とはいったいなんでしょう、ということを解説したものです。

内容はイギリスの政治風土や都市計画システム、アメニティに対する思いや最新事情などが複雑にからみあうため、超要約・翻訳して以下に紹介します。
スラウといえばほとんどロンドンともいってよいくらいロンドンに近い町で、最近の話題でいくと、イギリスがEUから離脱するとたいへん困る東欧からの移民労働者が多数働く労働党政権の町。また、もう1つ話題であげると、ヒースロー空港の第6ターミナルが西に拡張すると、もうそこはスラウといえるくらい近接しています。
住宅足りないね、ということで、現在、スラウのローカルプランを更新作業中です。けれども自分の町だけで住宅需要をまかなえないこともあり、わざわざ隣町に拡張計画を提案しなければならない状況。その隣町であるSouth Bucks District Council(保守党政権)自身は反対の立場ではないようなのですが、このSouth Bucks District Councilはさらに隣町のChiltern District Councilと合同でローカルプランを作成中。そのChiltern District Council(保守党政権)が当拡張計画に反対しているため、拡張計画をローカルプランに記載することができず、「困ったネ」という状態に。
ここで重要なのがエビデンス。スラウとしては、自らのローカルプランだけでは住宅需要に対応できないことをエビデンスで示し、どうしてもハミ出てしまうことが客観的に示せれば、(政治的に)反対されたとしても、(いずれ拡張計画の合理性が客観的に理解されるようになるはずだから遠慮せずに)あえて市街地拡張計画を示すことにメリットがあると判断したのでしょう。そうしたケースは首都ロンドンの周囲にはいくつもあるのでは、というのがこの巻頭言の主旨でした。

[関連資料]
・『Slough Northern Extention』(2017.9)
(アドレスを書こうとすると長くなるため、タイトル検索で。)

[関連記事]
・ロンドンの新空港(滑走路)候補地をめぐる話題
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20140106/1388995830
・the duty to cooperate
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20150203/1422962156