『史上最大の行事 万国博覧会』

日本語の“バンパク”という語感が心地良く、「そもそも万博とは」などと考えたことがこれまでなかった自分ですが、先週発売された本書に刺激されて、「都市イノベーションworld」の1つに加えます。堺屋太一著、光文社新書957、2018.7.30刊。

まず、その定義から(以下、Wikipedia)。国際博覧会条約によれば、国際博覧会とは「複数の国が参加した、公衆の教育を主たる目的とする催しであり、文明の必要とするものに応ずるために人類が利用することのできる手段又は人類の活動の一若しくは複数の部門において達成された進歩若しくはそれらの部門における将来の展望を示すものをいう。」

引用した訳文が固いのですが、その気持ちはなんとなく理解できます。特に、「人類が利用することのできる手段又は人類の活動の一若しくは複数の部門において達成された進歩若しくはそれらの部門における将来の展望」の部分はこれからも大切なことだと感じます。ある時代の、とある一国のどこかの会場で、「達成された進歩」若しくは「将来の展望」を示すことは、必然的にその時代の、その一国の姿や力や文明力や品位やエネルギーを表現することになる、、、
本書は、興行として行われる万国博覧会、なかでも政府が主体となり展示場を各国の負担で建設する「一般博」について論じた読み物。コテコテの自慢話風にも読み取れますが、1970年のバンパクを主導した著者ならではの個性が表出されます。
いつくかバンパクらしいと感じた点をあげます。第一に、テーマとコンセプトの違い。テーマだけでは博覧会を実務化・具体化・興業化できない。1970年バンパクは「人類の進歩と調和」がテーマだったのですが、これはどちらかというと上記国際博覧会の定義そのもの。ではどうしたかという部分が、とても興味深いです。第二は、大きな目標。前例があるとどうしても利権がらみのお役所仕事になってしまうところを、ある意味、皆が開き直って「本当におもしろいことをしよう」との意識で立ち向かったところ。第三に、そのこととも関わりますが、思い切って(まだ無名かさほど売れていない)その道のプロを登用したこと。以上の3つはある意味1970年バンパクの教訓なのに対し、あと2つ、バンパクの意義に関して加えると、第四に、そのバンパクの展示物や展示空間等が引き金となって後の時代に影響を与えること(本書では事例的に言及されているだけだが重要な点)、第五に、かつて「一般博」にカテゴライズされたようなバンパクは極めて少数しかないこと。

国内的にはともかく、万国にとって「達成された進歩」若しくは「将来の展望」を示すこととはどういうことか。これだけテクノロジーが進歩する中で、どうやって「本物のバンパク」が成り立ちうるか。そういうことを考えるきっかけになるだけでも、本書の意義は十分あるのではないかと思います。

[関連記事]
□1970年バンパク関連
・「1970年大阪万博」レガシー
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20180521/1526890456
□バンパク関係
・1851年ロンドン万国博覧会水晶宮
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20150629/1435558148
□イベントと都市
・『オリンピックのすべて』
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20160806/1470469793
・EVENTS AND URBAN REGENERATION
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20120731/1343702176
PLANNING OLYMPIC LEGACIES
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20140703/1404386372
・Olympicopolis
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20140925/1411641596
・ロンドンイノベーション(2) : オリンピックと下町再生
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20170407/1491536652