(文庫版)『民主主義の源流 古代アテネの実験』

都市計画家のP.Hallが『Cities in Civilisation』の中で、人類史上はじめて芸術が花開いた都としてとりあげたアテネアテネ以外にも古代都市はメソポタミアエーゲ海などにたくさん現れたにもかかわらず、芸術のみならず哲学や民主主義、そしてなによりも人間をみつめるヒューマニズムが一斉に花開いたこの都市は、なぜどのようにそうなったのか。なぜ別の都市ではなくここアテネだったのか。なぜ別の時代ではなくこの時代だったのか。

それらの多くがいまだきちんとは解明されていないなか、民主主義について、より正確にいうと、私たちが「民主主義」と現在呼んでいるものの生成当時の生きた姿とその進化プロセスについてわかりやすく語ったのが本書。1997年のオリジナル版を改題しつつ2016年に文庫化(講談社学術文庫2345)。著者は橋場弦(ゆづる)。ここでは、アテネ民主制発展の起動力となった主要モチーフを「あえていえば」という但し書き付きながら「参加(パティシペイション)」と「責任(アカウンタビリティ)」に設定。これら観点からその進化過程をリアルに描き出します。

ではなぜ民主主義も含めた数々の都市イノベーションアテネでこの時に起こったか。このような問いを立てているのは今までみたなかではP.Hallだけ。たとえばギリシャの土地は痩せていたからだとか気候が温暖で戸外で議論したり思索することができたなどというよくある説明をP.Hallは1つ1つ取り上げつつ一蹴。『Cities in Civilisation』のp67から68において結論に到達します(⇒関連記事)。まさに凄みのある動的結論。進化の過程に退化の過程も宿ります。

アテネもピークが過ぎると、やがて戦争にまみれ隣国に併合されて、学芸の中心はアレキサンドリア(など)に移動。しかしこのプロセスにおいて、どちらかというと「技芸」のうち「技」の充実や合理的科学の進化には結びついていったかもしれないけれども(たとえばローマの都市計画)、都市が市民とともに直接「芸」を生み出し続けた都市国家というのは、その後今日に至るまで現れていないのかもしれません。

[関連記事]
・『CITIES IN CIVILIZATION』(その1) Book One
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20170601/1496308112

【in evolution】世界の都市と都市計画
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http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20170309/1489041168