「貸し会議室」をリサーチする(その3) (都市は進化する11)

新型コロナの変異株などにより、また先行き不透明になってきました。「職」と「住」の関係も、「職場」の形態(その象徴が「オフィス」という20世紀に確立した形態)も、コミュニケーションの仕方も、「住」そのものの役割や構成も、「近隣」「地域」「都市」の状態も、やはりかなり変化しそうです。昨日読んだ『MaaSが都市を変える』(学芸出版社、2021.3.10刊)では、自動運転普及後(その過程も含む)の、「駐車場」「街路空間」「駅前広場」「ハブ」がいかに変わるかを、かなり工学的・空間的にも突っ込んで具体的に解説しており、「都市」を構成するさまざまな要素や構成が大きく変わりそうな気配がヒシヒシと感じられます。

 

「貸し会議室」をリサーチする、の3回目は、1,2回目が老朽(中古)ビル・マンションの転用タイプだったのに対し、新築複合シェアビルの事例をじっくり観察します。

この新築複合シェアビルは4部屋の「貸し会議室」をもつのですが、(その2)を書いていた昨年10月時点では最大規模の部屋しか市場に出ていませんでした。ところが昨年11月にシステムが変更され扱う会社も変わって、小(2部屋、7㎡)、中(1部屋、20㎡)が追加され、これまでも予約できた大(1部屋、47㎡)と合わせた4部屋が、1時間ごとの空き部屋情報とともに簡便に予約できることになりました。想像ですが、ビル経営上、貸しスペースの稼働率が(きわめて)低く遊んでいるので(メンテ費はかかり設備は老朽化していく)、最大限活用しようとしたものと思われます。そこに「ご近所」の私のような需要もキャッチすることになった、とのストーリーです。私の側からみれば常時3タイプ4部屋がすぐそこにあり、「住」機能を補完する新たな空間をかなり自由に使えるようになった(もちろん料金はかかりますが)。

 

そこで少しひろげてこの新築複合シェアビルの意味を数字で示します。敷地面積は広くない(狭い)ですが近隣商店街の一角にあり、10階建て。5階にビルオーナー会社と思われる法人(不動産会社)が。6~9階は1社に貸しています。10階と4階がさきほど出てきた「貸し会議室」。そうすると1~3階が残りますが、1階は主として共用スペース。残りの1階の奥と2,3階にスモールオフィスがあります。1人タイプが12部屋、2人タイプが3部屋、3人タイプが1部屋の、計16部屋です。ネット情報でここを住所とする法人数を調べてみると44。16部屋のうち2部屋に空き募集が出ており14部屋で44法人とするとざっと3倍。この差は、「バーチャルオフィス」分とおおざっぱには考えられます。たとえば新型コロナで「もう、社員が集まるオフィスはたたもう」とした場合、全員リモートワークでバーチャルオフィスだけある、などという会社の形態も増加しているものと思われます。そして月例会議やちょっとした打合せは先に出てきた3タイプの会議室を時間借りしてもよい(外から借りる場合は最低2時間)。そのようにして「オフィス」の賃料はほぼ無くなる。(その反作用として、各従業員は在宅あるいはリモート勤務となりそれだけのスペースと機能がどこかに必要になる。それを都市レベルで集合させたものが「新しい都市」となる。)

近隣商店街に立地しているので、コンビニはもちろんのこと銀行も郵便局もドラッグストアもちょっとした食堂もクリーニング屋も八百屋も、、一通りそろっているので(ちゃんとした喫茶店のようなものがないのはかなり痛い)、この複合シェアビルの中にはほとんど余計なものはいらない(セルフサービスのコーヒーは「貸し会議室」のフロアについている)。

 

たった1つの例ですが、ここから、「都市は進化する」の進化形態がいろいろ想像できます。さきの『MaaSが都市を変える』に出てくる、新しく定義された「駐車場」「街路空間」「駅前広場」「ハブ」などの外部空間を構成する部品と組み合わせると、「新アーバンビレッジ」のヒナ型のようなものも描けそうです。

 

 

 本記事を「ポスト・コロナ社会の新ビジョン」に追加しました。

https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/2020/05/05/121753