『THE INNOVATION COMPLEX』(都市は進化する20)

2008年のリーマンショック後の10年ほどの間にニューヨークを舞台に展開した新経済構築のさまを、ニューヨークっ子であり社会学者である著者が活写した快作。

SHARON ZUKIN著、Oxford University Press、2020。副題は「Cities, Tech, and the New Economy」。本題と副題だけではこの本のおもしろさがわからないので、以下に、どのような本なのかを、少し紹介します。

第一.批評より分析にかなり力点を置いた、リーマンショック後の新しい経済の立ち上がりを描いた力作です。社会学者として、「こうした経済成長の裏では追い出されてしまう弱者がたくさんいて困ってものだ」ということもたくさん書きたかったのではと想像しますが、この本ではそうした意図はかなり抑制されて、まさにニューヨークという都市で展開された大きな動きを、社会学者ならではの方法によって緻密に描き出しています。

第二.その「緻密に描き出しています」には、分析、構成、表現の3つの要素があり、それぞれのレベルがきわめて高い。特にこの本がわかりやすく魅力的なのはその「構成」にあるのではと思います。

第三.その「構成」の妙によって、一瞬のうちにこの本の世界に、つまりはニューヨークに引き込まれます。内容は読んでのお楽しみとして、リーマンショック後のニューヨークになにが起こったか、そしてそれらがどのように今日に至るかという、普通なら体験できないことを臨場感をもって体験できます。

第四.なぜシリコンバレーでなくニューヨークなのか。ニューヨークならではというのはどういうことか。シリコンバレーとニューヨークの両方があるということがどのようにアメリカの(経済力の)強さにつながっているのかのヒントが詰まっています。

第五.「構成」によって切り分けられた1つ1つの章がそれぞれおもしろいです。そしてそのそれぞれが、新しい経済成長を解き明かす部品のようになっていて、積み上がっていく。

 

まだまだ書ききれないくらいたくさんおもしろいことがあります。都市計画として読んでも面白いし、新たなスポットを訪ね歩くときのガイドブツクにもなる。

 

最後に。社会学者として本当に描きたかのではと想像されることを、その「前段」の分析と、評価・批評する「本題」にあえて分け、また、「前段」のうち本題に至るための「突っ込み」にあたる部分をさらに分けると、「前段(突っ込み以外)」「突っ込み」「評価・批評」の割合が80%、15%、5%という感じです。本書では「評価・批評」の部分をあえて5%に抑え分析に徹することで、コトの本質にストレートに迫っています。けれども、15%の「突っ込み」によって、公正で公平な「良き都市」へ向かおうとする人々の努力やエネルギーをできる限り描写しつつ、「評価・批評」を加えることで、新経済オンリーの社会が引き起こすさまざまな問題をどうしたら解決できるかを常に問うています。あまりに新経済化のエネルギーが大きいためにその道は険しいものと予感されるのですが、、、

 

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