『西暦1000年  グローバリゼーションの誕生』

以前、「コロンブスより約500年前にアメリカ大陸に上陸するも<発見>には至らず(『図説・大西洋の歴史』(その1))」と題して、コロンブスがアメリカ大陸を「発見」するはるか前に北欧のヴァイキングがそこに「上陸」していたとされることを書きましたが、本書(ヴァレリー・ハンセン著(赤根洋子訳)、文藝春秋2021.5.15刊)は、今から1000年前の“西暦1000年”に地球上のさまざまな場所で広域移動・交流・交易が深まり“グローバリゼーション”が誕生したというグローバルヒストリーを、このヴァイキングの話も含めて綴った興味深い図書です。

1つ1つのストーリーは都市計画というよりヒストリーそのものですが、ちょうど“西暦1000年”というあたりは、東アジアでも唐滅亡後の、これといった強大な勢力がなく、それぞれの地域でそれぞれの文化(都市や都市計画も含む)が進化・深化したとされる時代のため、あえてこの頃のグローバルヒストリーを語った本書はある意味貴重です。どれもおもしろいのですが、都市・都市計画の視点から2つ、身近で興味深い(アジアの)話題をとりあげます。

 

1つは、日本において「東国」に武士団が成長しはじめた頃(⇒関連記事1)、都では「国風文化」がジワジワと芽生え、『源氏物語』などが書かれた。その『源氏物語』に出てくる雅な生活に欠かせない「お香」は舶来品で、どこからどうやって運ばれてきていたかというと、実は、当時のグローバリゼーションによって、、、といった具合に、「武士団」や「国風文化」に目を奪われていた自分が、パッと、グローバルな文脈に放り込まれるあたりです。中国の港から博多港経由で京に運ばれていたのだと。

もう1つは、少し南に下がって、当時東南アジアの中心的都市となったアンコールワットの話。実は、NHKスペシャル「アジア巨大遺跡」を観たとき、秦の始皇帝の墓の話は一部取り上げた(⇒関連記事2)のに対して、「これはすごい」と思ったアンコールワットの近年の研究成果については当時まだグローバルな位置づけがピンとこず、「いつかその時が来たら取り上げよう」と思っていたものです。この『西暦1000年  グローバリゼーションの誕生』ではまさにその頃の、南アジア―東南アジア―東アジアのグローバリゼーションの様子が描かれていて、都市としてのアンコールワットの調査についても補注で書かれており、それがNHKスペシャルの内容と一致していました。さっそく「もう一度」NHKスペシャルをじっくり観てみると、当時は気づかなかった重要なメッセージが伝わってきました。1000~1500平方キロメートルにも及ぶ大都市圏ともいえそうな人口100万都市がなぜ成立したのか、その成立を可能としていたのはどのような要因だったのかが明快に描かれていました。また、『西暦1000年  グローバリゼーションの誕生』との関係で特筆されるのは、「すべての道はローマに通じる」ならぬ「すべての道はアンコールワットに通じる」ことが近年の研究成果により(まだ仮説的な部分もありますが)語られていて、『西暦1000年  グローバリゼーションの誕生』×NHKスペシャルによってはじめて、この頃の東南アジアの安定的な都市・地域の姿がわかってきました。

 

最後に。この『西暦1000年  グローバリゼーションの誕生』にもう一つ副題をつけるなら、「西暦1000年 やがてやってくる大航海時代までの前史」という感じでしょうか。アンコールワットがなぜ衰退してしまったのかについては諸説あり、よくわかっていない。歴史は飛び飛びにしかわかっていないし、日本史と世界史の相互関係も実は飛び飛びにしかわかっていない。『西暦1000年  グローバリゼーションの誕生』は、その隙間を埋めるうえでの補助線となるような魅力を秘めた図書になりそうです。

 

[関連記事]

1. 1020年9月の「東国」

2.『(NHKスペシャル)地下に眠る皇帝の野望』×『(映画)キングダム』×『(新書)始皇帝 中華統一の思想』

 

 

【in evolution】世界の都市と都市計画
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