サッカースタジアム建設による世界遺産登録剥奪(リヴァプール市)をめぐって

先週届いたTown & Country Planning 2021年11/12月号をペラペラめくっていると、「lessons from a sorry world heritage saga」との見出しが目に入りました(p392-398)。昨年7月にリヴァプールの世界遺産(Maritime Mercantile City)登録が剥奪されたことに対する怒りの論説、という雰囲気のもので、世界遺産史上3例目となってしまった登録剥奪の経緯と自説を述べています。

リヴァプールに2つあるプレミアリーグ(サッカー)チームの1つエヴァートンの新スタジアムをドックの1つを埋め立てて建設することが直接の引き金となり登録剥奪の決定が2021年7月になされたこの“事件”の構造を他資料も含めてとらえ、重要そうなポイントを3つに絞り書き留めます。

第一。この世界遺産は2004年に登録されましたが、大規模開発計画への危惧から2012年に「危機遺産」入りしていたものです。この度の新スタジアムはその危惧を決定づけるものでした。過去の遺産をとるか、現在から未来への都市再生をとるかについての、決定的な別れ道になったようです。

第二。新スタジアムの建設には地元自治体がファイナンス面も含め強力にバックアップしています。開発計画の許可に対し国が「待った」をかけることも制度上可能(国がcall-inする(⇒関連記事))でしたが、それはローカルな問題との立場で黙認したことから、登録剥奪へと結果しました。2021年7月26日にはスタジアム建設が始まりました。2024/25のシーズンからエヴァートンは新スタジアムを使う予定です。

第三。では、なぜエヴァートンはこのようなリスクに突入することになってしまったのでしょうか。1つは老朽化した現スタジアム(グディソンパーク)の手当てでは限界があること(シート化への対応で座席数減となり他チームに見劣り)、2つ目には、郊外自治体への移転話に対しファンから強い反対があり頓挫した経緯があること、3つ目には、第二で示したように地元行政からの強力なサポートがあったことです。

 

記事では世界遺産のシステム自体に疑問符を付けているのですが、ストーンヘンジが道路計画により「次の抹消候補」とささやかれるなど、英国の文化・経済・都市政策と世界遺産政策とが正面衝突しかかっている気配も感じられなくもありません。



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[参考資料] ユネスコHPで「見え消し」になっているリブァプールの世界遺産ページ

https://whc.unesco.org/en/list/1150/multiple=1&unique_number=1331

 

[関連記事] 「call-in」について

・近隣計画に関連するコール・インが発動されました

https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/20161126/1480149649

・近隣計画に関連するコール・インその後

https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/20171106/1509964612