近隣計画に関連するコール・インその後(近隣計画をめぐる新トピック(2)の2)

先週届いたTown & Country Planningの9月号(2017.9)に、「should development benefits outweigh neighbourhood plans?」と題するD. Lock氏の論説が掲載されています。
かなり専門的というかイギリス民主主義的な内容ですが、都市計画の「プラン」特に近隣計画と許可/不許可の関係を考える重要な論点を含んでいるので、前回の記事(⇒関連記事)の続きとして取り上げます。

ミルトンキーンズという戦後のニュータウン開発でできた活力あるニュータウンのセンターにおいて、その計画・設計意図に沿った街のあり方を次世代に引き継ごうと、近年、近隣計画が策定されたのですが、その方針に反すると策定者側が主張する民間開発が地元自治体によって2015年に承認されたため、大臣から「待った」がかかり(call-in)、2年ほどの審査期間を経て、ようやく2017年7月19日にその報告が出されました。結果は、地元自治体の判断のとおり開発を認めるというものでした。
https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/629564/17-07-19_DL_IR_INTU_MK_3139212.pdf
上記pdfはその報告で、実際に双方の意見を聴き実地に検証を行った審査官のレポート(インスペクター・レポート)にもとづき「地元自治体の判断どおり開発を認める」と結論づけています。

Town & Country Planningの記事タイトルから類推できるように、この判断では「近隣計画(プラン)」の意図よりも「development benefit」が上回ると判断されています。けれども、「そんな判断をしてよいのだろうか。それでは近隣計画の意味がなくなってしまうではないか。そのような判断がなされるとすると、他の近隣計画の扱いもそのようなものになってしまうのではないか」と、怒りというよりもため息に近い筆者の思いが伝わってきます。
特に筆者がとりあげるのは「インスペクター・レポート」の第276〜278節。そこでは、「近隣計画は策定され終わったなら、策定者の意志とは離れて一般のディベロツプメントプランの一部となるのだから、開発の適否の判断は、策定者の意志によってではなく、法的判断に委ねられるべきである」との議論がなされています。

ではどのような法的議論がなされたのかについて、上記pdfの原文を読み解いてみます。
まず、プランの側が想定する「害(harm)」、つまり、新規開発では、これまでの建築空間の良さを形づくってきた公共空間を狭めるなど「方針に反すること」を計画しているのですが、その「程度」を「less than substantial」と判断しています。「(害は)あるにはあるけど、すごくあるというほどではない」という感じでしょうか。そのうえで「public benefits」と天秤にかけ、「public benefits of the proposal are considerable and sufficient to outweigh the‘less than substantial’harm to the significance of the listed Shopping Building」としています(冒頭の結論部分の第23〜24節)。
論説タイトルに含まれる「development benefits」と天秤にかけられた「public benefits of the proposal」が少しすれ違っているようにみえますが、これだけ時間をかけてでも民主的に議論をしようというのがイギリス都市計画の伝統なのでしょう。ちなみに、この審査にかけた費用(自らの判断の適切性を示そうとする地元自治体のコスト)は「地元紙によると15万ポンドだった」とされます(1ポンド150円換算で2250万円)。


[関連記事]
・近隣計画に関連するコール・インが発動されました(近隣計画をめぐる新トピック(2))
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20161126/1480149649