「別荘」と「二拠点居住」~ロンドンでの体験から

およそ20年前に2か月間ロンドンに滞在したときの、その滞在した家の所有者が「二拠点居住者」だった話から、昨日の伊東市の「別荘」話を少々拡張してみます。国土交通省は最近「二地域居住」という用語(=政策)により「都市部と地方部に2つの拠点をもち、定期的に地方部でのんびり過ごしたり、仕事をしたりする」イメージを普及させようとしているようですが、昨日の伊東市のような大都市圏内の生活を考えると、「都市部と地方部の二地域居住」というより「大都市圏内の二拠点居住」のイメージが近い気がします。

 

ロンドン準郊外のその家は2戸がくっついて建つタイプの住宅で、一戸建てと長屋建ての中間的な建て方です。そのような住宅が、ゆるやかにカーブする街路沿道に連続して建ち並ぶ、ロンドンにはよくあるタイプの場所です。「1年単位の長期ではないが10日程度までの短期でもない、2か月滞在できる」賃貸を日本でさがして見つけました(1週間ごとに家賃を支払う)。最初に驚いたのは、「あなたは、この部屋のカギとこの部屋のカギとこの部屋のカギを使って最初の1か月間は2階に住んでください」、と言われたことです。ええっ?!?。フロに入るのも共用廊下を通って行くの?!!。この家は2階建てプラス天井高のやや低い3階のある物件です。それらが1軒の家として内部が一体的になっているので、必要なユニット分だけカギを渡されて暮らす家でした。

最初はとても不安でしたが、次第に慣れてきて、「この家」に私は暮らしているんだというロンドン生活を体験することができました。想像すると、家主はもともとこの家に住んでいたのですが、週末に過ごす海辺の家をつくって、1階と2階がそれぞれ使えるように「民泊」用に改装した(もしかすると改装もせずそのままだったかもしれない)。平日に家主が住む3階は狭目なのですが、金曜も夜に近づくと、「あとはよろしくネ」といった感じで家主夫婦は海辺の家に帰っていきました。

こういうのがロンドンの「二拠点居住」の1例なのか、と。もともとイギリス人は田園生活志向が強いため(都市のゴミゴミした生活は嫌い)、生活に余裕ができてくるとこのような「二拠点居住」になったりする。この場合、「二拠点居住」のどちらが「主」でどちらが「従」か決めよ(たとえば昨日紹介した日本の住宅・土地統計調査の「二次的住宅」はどちらか決めよ)と言われても、「どちらも主です」となりそうです。もっというと、ロンドンの家の方は「民泊」業を営む仕事場でもありその3階に平日暮らしているときは「住商併用住宅」ならぬ「住泊併用住宅」となる。また、海辺の家も「別荘」というより大切な週末用の「主となる住宅」ではないか。最終的に「海辺の家」に引っ越してしまえばそちらが住宅で、ロンドンのほうは「簡易宿泊所」のようなカテゴリーになるのかもしれない。あるいはまた別のその住宅を主とする家族が使うのかもしれない。部屋ごとに細分化してアパートと化すのかもしれない。

 

ということで、日本でも新型コロナの経験を経て、「別荘」「二拠点居住」「空き家」「主となる住宅」などの概念(・実態)が様変わりしており、さらに変化しつつあるかもしれない。これらに「在宅勤務(テレワーク)」「民泊」「移住」「ライフ/ワークの組み合わせ」などの概念(・実態)を掛け合わせると、かなり多様で新しいパターンが量的にもそれなりの数で出現していると思われ、都市や地域のビジョン・政策・事業などがうまくフィットしていない可能性がある。ではどのようにすればそれらが「つかめる」か、についてはそう簡単ではなさそうですが、たとえば、それぞれの自治体で部署横断的に(民間の力も借りて)基礎的情報を整理・共有することからはじめることが案外近道なのかもしれません。