下院Levelling-up特別委員会委員長からLevelling-up大臣への手紙(2022年8月24日) (レベルアップおよび再生法案審議過程(その4))

昨日届いたTown & country planning 2022年9月/10月合併号を1枚めくると、「new priorities under the new prime minister?」と題する短い論説が出ていました。「新首相」はどちらのことだろう? などとやや興味本位で読んでみると、今回の法案(Levelling-up and regeneration Bill)審議過程の重要な情報が出ていたので、それについて取り上げます。

 

2022年11月9日現在、法案は下院(House of Commons)の「委員会ステージ」を終えて、「Report Stage」となっています。「委員会ステージ」の修正案を踏まえて、下院メンバーなら誰でも修正案が出せるステージで、20を超える修正案が提案者の写真入りで並んでいます。ホームページの説明によると、ほどなく「3 rd reading」に入り下院審議が行われる模様です。

さて、今回取り上げる「大臣への手紙」ですが、日付からわかるように、「委員会ステージ」の途中に入った「夏休み中」に出されています。首相が2度もかわり女王も崩御し国葬が行われるなど政治的にも社会的にもいろいろあり、さらに短命だった首相がきっかけをつくった経済的混乱もあり、8,9,10月、とりわけ9月と10月はイギリスにとって混乱の時期になってしまいましたが、「委員会ステージ」での議論を踏まえていわば政府に対する苦言を呈する内容のこの手紙を読むと、淡々と進む国会審議とは別の次元で、国会(下院)から政府に突き付けられた「宿題」の重さを感じます。

 

いろいろ書かれているのですが、中でも2つの大きな問題が指摘されています。

1つは国会で審議すべき「法案」のあり方についてです。本ブログの7月26日の記事にも出ているように、中身がほとんどなく「ここにこういう類の条項をいずれ入れる予定です」という場所とりのような「placeholder clause」が他にもたくさんこの法案にはちりばめられており、特に重要な部分にそれが多用されている。本音を言えば「こんな法案、審議できるわけないでしょ」、というような問題が多数ある。さすがに委員長も委員長として苦言を強く呈する必要性を感じ大臣に物申す形になっているととらえました。

2つめは、イギリスにとっては重大問題である国土(や都市・地域)のレベルアップといいながらその財源の裏付けがない点です。法案そのものは財源を用意するというより行政的・制度的枠組みを用意するものなのでこれは第一の問題とは次元が異なるのですが、ブレクジットでEUを離脱し、インフレに悩むイギリスとしては深刻な問題なのかもしれません。国会のHPを見ると、どうやら下院Levelling-up特別委員会では独自に審問会(inquiry)を開いて財源問題を追及するようです(10月20日記事)。

 

さて、もうすぐ始まる下院での「3 rd reading」と委員会独自の活動。そしてそれに対応する政府。都市計画技術としてだけでなく、国の重要な政策課題としても、さらにはこうした時期・時代における経済的・財政的課題の面でも、さらには立法技術・文化を定点観測するうえでも、見逃せないポイントにさしかかってきたのではないかと思います。

 

🔖検索    「法案」

 

 

本記事を「【研究ノート】Levelling-up and Planning」に入れました。

https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/2022/05/18/100512