下院段階の法案がほぼ固まったようです :「Street vote」に着目して (レベルアップおよび再生法案審議過程(その5))

12月13日に「Report Stage」最後の審議があり、どうやら下院における法案がかたまったようです。多くの修正案を処理するために審議は2回に分けられ、その第1回が11月23日になされました。12月13日は2回目という位置づけで、これをもって「Report Stage」は終わり「Third Reading」を経て上院に送られる、との段取りのようです。

本日はそうしたプロセスの記述の正確性は横に置いておき、(その3)で着目した「Street vote」がどのくらい具体的になったのか見てみます。「Street vote」そのものにも興味が湧くところですが、それを含めつつも、むしろ問題視されていた「placeholder clause(場所取り(仮置き)条項)」がその後どうなったのかを、(その3)で提起されていたある議員の論点に沿って達観的に見てみます。

条文からおさらいすると、

The Secretary of State may by regulations make provision for a system that permits residents of a street to— (a) propose development on their street, and (b) determine, by means of a vote, whether that development should be given planning permission, on condition that certain requirements prescribed in the regulations are met.

そのストリートの住民の投票により開発を提案したりその開発に計画許可を与えてよいかどうかを決めることができるシステムを規定できる。細かな点は規則で定める。

 

以下、議員A(労働党)の6つの論点に沿って、現時点での法案を読み解きながら解説してみます。とてもテクニカルな内容ですが、できるだけ「意味」を解釈します。

「第一に、なぜこのような超ローカルな新パワーが必要と考えたのか。2011年に制度化した「近隣計画」にはNeighbourhood Development Orderという似たような規定があるがほとんど使われておらず、それを失敗とみてそのかわりに考えたものなのか?」

現段階の法案では、1990年都市計画法に接ぎ木する形で、「61Q条」のあとに「61QA条~61QM条」を「Street vote development orders」として設ける。「61Q条」は「community right to build orders」というもので、2011年Localism Actで設けられた条項なのですが、10年以上運用されてほとんど事例はありません。A議員が言及している「neighbourhood development order」も同様に10年以上運用されておそらく事例は1ケタ代くらいのものと思われます。「〇〇order」という形をとり類似の規程に並べて「61QA~61QM条」とすることがわかったことにより、ある意味、「また使われない規定ができそうだ」と思ったりしてしまいますが、まだ上院審議期間もあるので見守りたいと思います。

「第二に、本当に「street」が適切な空間単位なのか。その説明がほしい。」

これには正面からは答えにくいと思われます。また、法律として規定してはじめて「空間単位」が見えてくるものと思われます。

「第三にこの規定は、ストリートレベルで住宅供給を増やそうとするのが目的なのか? その場合、既存住宅所有者は増築等で得をする一方、持たざる者は利益が無く不公平の拡大になるのではないか。」

これもたいへん答えにくい質問だと思われます。むしろ、法律でどのように規定するかが問われます。「61QA条~61QM条」を読むと、結局この条文自体は、「Street vote development order」をどのように決めるかの決め方を定める内容で、その決め方は大臣が「規則(regulation)」で決めるとなっているので、なんのことはない、本当に知りたい「内容」については書いていない。書いてあるのは、発議するのは「qualifying group」であって、それにもとづき「street area」を決める。また、そのエリアの決め方のフレームが書いてある。そして、そのエリアでどのような開発が許されるのかについての決め方について「order」の中にどのように決めるかのフレームのみが書かれている。内容は書いてないので、内容が決まるまで「ストリートレベルで住宅供給を増やそうとするのが目的なのか?」どうかはわからないし、ある場所で「order」が決まったとしても別の場所ではまた違う「order」になるはずなので、「ストリートレベルで住宅供給を増やそうとするのが目的なのか?」どうかは永遠にわからない。唯一想定できるのは、「このような「order」を立法するのはおそらく開発目当てに違いない」といった政治的憶測などになってしまう。

「第四に、また新たな規定により自治体の事務量が増えることになりそうだが、十分な手当は考えているのか。」

これについては「61QK条」により、大臣は必要と認める場合はそのためになんでもできる、と書いてあります。考えられる余地は書いてあるが本当にどれくらい考えるかは大臣次第です。

「第五に、投票というが何人集まれば資格があるのか。1人でもよいのか。通りの何割の人が登録すれば事足りると考えているのか。」

これも先の第三と同じで、「qualifying group」の決め方は法律ができたあと出てくる規則を見ないとわからない。もしかすると「それは行き過ぎでしょ」という議論が上院であったりして法律の中に「何人以上」のように書くことになるかもしれませんが、現段階では規則に委ねられている。

「最後に、マスタープラン(Development Plan)との関係はどうするのか。近隣計画との関係はどうするのか。」

これについては、「Street vote development order」の形をとるとわかったことで、ほぼ法形式は見えてきたのではないかと思います。ただし、新しい「qualifying group」と、近隣計画の地域主体との関係をどう整理するかなど、これから考えるべきポイントはありそうです。

 

長くなってしまいましたが、今回は「Street vote」を例にあげながら、現在進行中で下院から上院へとその場を移そうとしている法案の熟成ぶり?につき整理してみました。

 

🔖検索 「neighbourhood development order」「community right to build order」

 

本記事を「【研究ノート】Levelling-up and Planning」に入れました。

https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/2022/05/18/100512