上院「報告ステージ」の採決で「Healthy Homes」条項が「可」となったことの分析 (レベルアップおよび再生法案審議過程(その13))

2023年9月4日の上院「報告ステージ」第5日目において、修正案191Aについて採決があり、「158対149で採択されたようです」と、(その11)の中に昨日追記したのですが、「採決されたようです」の部分をより明確にしたいと探したところ、「the public whip」というサイトをみつけました。どこかで役立つかもしれないので、下記[資料]にこの191Aの採決結果のページを出しておきます。このページからさかのぼると、「9月4日に採決された他の投票結果はどうだったか」とか、「レベルアップおよび再生法案審議」ではどの過程で何が採決されたかなどがわかります。もちろん他の法案審議過程についても。

 

さて、細部のややこしそうな点はとりあえず無視して「158対149」の内訳を「the public whip」でみると、「Con(保守党)」は134が「否(Not-Content)」に対して1票だけ「可(Content)」。これだけで否決票のほとんどを占めており、あとはDUP(北アイルランドの保守党)の3が目立つくらいです。
これに対して「Lab(労働党)」の「可」は77しかありませんが、「LDem(自由民主党(←「自由党」の流れの党))」が48票もあります。この2党はすべて「可」で(191Aを通そうとする)結束の強さを読み取れます。これだけでは足りませんが、最も目を引く、キャスティングボードを握っているのが「Crossbench」。これは何者か???
調べてみると、日本風にいえば「無所属」的な議員たちの集まりではあるものの、右にも左にも属さず、議会では両者の席の間で橋渡しをする場所に席がある(=crossbench)議員らで「クロスベンチャー」と呼ばれているようです。そもそも修正案191Aはその「クロスベンチャー」の1人が中心となりなんとかこの機会に法律にするべく各方面と協力しながら働きかけてきたもの。この「Crossbench」の21の「可」(「否」も2ある)を足し合わせると77+48+21=146となり、保守を上回っている。これに「Green(緑の党)」の2や保守などからの‘造反組??’などが加わることで支持基盤をいくらか強くして「可」となっている。

 

本当は「この採決で投票権があるのは誰だったのか」とか、上院の勢力分布はどうなっているのかとか、下院も含めて「イギリスの国政」はどうなっているのかを正確に知らないといけないのですが、2024年に予定されているイギリス総選挙で与党の苦戦(EU離脱後の経済状態がよくないなど)が伝えられる中、191Aの採決結果が、(おおげさにいうと)現在のイギリス国民の都市・住宅・地域政策への願いを表しているようにも見えてきます。重要な点を付け加えるならば、「レベルアップおよび再生法」のねらいは、単に「レベルアップしよう」とか「再生」がんばろう、というのではなく、勝ち組と負け組のギャップが開きすぎた昨今のイギリスの不公平な状況を改善(できれば改革)しつつなんとか都市や地域全体を底上げしようとするところにあります。

 

最後に、191Aとはどのような修正案だったかを原文のまま引用します(下の参考資料より)。この段階ではかなり理念的なものでどのように具体的な「regulatory framework」にしていくのかは不明な部分が多いのですが((3)項で書かれているように「付則」も用意されており、その中に「原則」や「基準」について言及されている)、このようなベーシックな理念を支持する勢力が多数であったことと、おそらくは法制的にも他の類似の政策目標と住み分けながら独自の領域が確立できる(確立すべき/多少の困難は予想されてもやってみようじゃないか)という空気感(これまでのやり方を変えないといけないという危機感や、どうも問題だらけでなんとかしなければいけないという焦燥感などを含む)があるのではないかと思うところです。

 

191A: After Clause 88, insert the following new Clause-“Secretary of State’s duty to promote healthy homes and neighbourhoods(1) The Secretary of State must promote a comprehensive regulatory framework for planning and the built environment designed to secure-(a) the physical, mental and social health and well-being of the people of England, and(b) healthy homes and neighbourhoods.(2) The Secretary of State may by regulations make provision for a system of standards that promotes and secures healthy homes on condition that certain requirements prescribed in the regulations are met. (3) Schedule (Healthy homes) makes provision about healthy homes standards.”

 

 

[資料] サイト「the public whip」より

https://www.publicwhip.org.uk/division.php?date=2023-09-04&house=lords&number=4

 

本記事を「【研究ノート】Levelling-up and Planning」に入れました。https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/2022/05/18/100512

 

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