『資本とイデオロギー』(トマ・ピケティ)を読む

『21世紀の資本』(山形浩生ら訳、みすず書房2014.12.8刊)から、はや9年。もうすぐ2024年です。ただし、2023.8.22に日本語版の出た本書(山形浩生/森本正史訳、みすず書房)は新型コロナ前までの状況に基づいている(出版は2019年)ので、『21世紀の資本』の続編というより、姉妹編ととらえます。姉が先陣を切って21世紀初頭の不平等をフランス革命後のおよそ200年間のデータを駆使して読み解きます。妹はその成果を包含するように中世にまでさかのぼりつつ、グローバルな視点でより構造的・歴史的に「不平等」を読み説く。およそ第13章あたりで姉が開拓した解釈まで追いつく。

あとは姉が既に解き明かしていた解釈(特に学歴と資産の関係)をさらに細かく作業しつつ、これからの社会のあり方について持論を展開する。最後の「結論」は、結論というより「はじめに」に近く、『21世紀の資本』と『資本とイデオロギー』(の13章までの成果)を姉妹で称え合う。

 

『21世紀の資本』のあとの成果を中心に、重要と思う(+興味が湧いた)ポイントをいくつかあげます。短めに。

第一。不平等の原因は「所得」というより「資産」の不平等だということで「19世紀までどちらかというと95対5的な社会だったものがその後の2度の大戦およびそれに伴う帝国の解体、社会の混乱、中産階級の成長で50対50的な「戦後」だと思っていたものが、1980年以降、今度は95対5的な社会の方向へ向かいつつある」と本ブログで書いていた部分、とりわけ「95対5」が「50対50」(のような状態)になった原因が、かなり詳しく書かれており、特にそれが第一次大戦前までに蓄積された植民地投資資産の崩壊や、日本でも行われた農地改革のような戦後改革などとの関係で語られており、この部分の前ブログでの理解の至らなさを感じるとともに「戦後日本の都市計画」を歴史の中に位置づけるうえでのグローバルな示唆を与えられました。

第二。それとも関連して、この「95対5」の格差が「2度の大戦を経て」かなり解消される過程を「課税」による年次推移的なデータとして「見える化」した点は、『21世紀の資本』でもデータとして示されていたとはいえ、第一の点の理解や、税率の設定をめぐる各国での政治的駆け引きなどの描写によって、かなり具体的かつリアルに理解できるようになり、このことだけでも本書を読んでよかったと思います。

第三。これは『21世紀の資本』のほうが強烈な成果だと思いますが、1980年代以降の格差拡大。見逃せない情報として加わったのは、ロシアや中国での格差拡大のデータです。

第四。そういう意味では歴史的な「奴隷(制度)」や「植民地(投資)」による富の蓄積などについてデータにより示したことは、やや大げさですが「人類の歴史をグローバルな資産形成と資産分配の視点から明らかにする端緒となった」重要書となるのではないかと感じました。(話としてはとても国内的ではありますが、日本が開国したあとの内外「資産」の出入りを量的に解き明かすとか、横浜における貿易で横浜という都市にとってどのような収支があったのかなどの、ピケティが示したグローバルなフレームの中での日本の近代化をとらえなおす、などというのも重要なテーマと感じます。)

第五。(これは本書に刺激されての話ですが、)たとえば一昨日の「東京のアフォーダブル住宅問題 : 過去・現在・未来」の中で「日本が「失われた10年」「同20年」「同30年」によって物価も家賃も安定(低迷?)した時期が続き「アフォーダビリティー」という言葉もほとんど聞かれなくなってしまった」の部分に関連して、この間の「資産」はどうなっていたのか。グローバルにみた場合、「東京一極集中」などの国土構造でみた場合、富裕層/中間層などの階層的にみた場合で、結局どういうことだったのかを、データとして時系列にとらえることができればまた新たな発想も出てきそうだ、などとも考えた次第です。

 

まだまだいろいろおもしろかった点があり、その内容もさまざまです。たとえばそれぞれの時代の経済・社会の状態を小説を使って解説してあるところなどは、その小説に興味が湧いたりもしました。おおいに参考にしたい、読み終わってみれば姉妹作品全体に感謝の念が湧いてくる逸品です。

 

🔖検索 「ピケティ」「格差」「資本