『LE CORBUSIER’S CHANDIGARH REVISITED』

ル・コルビュジェが計画・設計したとされるチャンディガール。

そのチャンディガールにかつて住み、インドで学士号をとった後アメリカに移り住み今はワシントン大学教授(建築学)のVIKRAMADITYA PRAKASH氏が綴った待望の書が出ました。「待望」しているのは私だけかもしれないので少し説明すると、これまでチャンディガールは「あんな人間性の薄い近代都市計画の見本のような都市は大嫌い」という反応と、「コルビュジェのつくったチャンディガールは世界遺産になったんだから、オリジナルな部分はそのまま保存すべきであって、それに反する不動産開発などもってのほかだ」という両極の評価になりがちで、2005年に彰国社から出版された『ル・コルビュジェのインド』がいくらか現実のチャンディガールに寄り添った分析・評価をしているものの、包括的にチャンディガールの行く末を論じたものがないと感じていたところ、2024年になって、この本をみつけたというものです。Routledge,2024。副題は「Preservation as Future Modernism」。

コンパクトにまとめられた4章構成で、第1章のイントロダクションに続き、「Ecology」「Democracy」「Information Technology」の3つが主要な部品です。第5章も一応ありますが、「あとがき」として‘Indian Future Modernism’についてまとめています。

この「Indian Future Modernism」が本書のキー・コンセプト(もっというと、「Future Modernism」をコンセプトとしている)。そのことについて「ここぞ」という文章が20頁の中ほどから書かれているのでざっくりまとめると、「チャンディガールのマスタープランはあるけれど、そのままパーフェクトに実現すればよいというものではない。現時点でもいまだ建設的な視点から将来に向かう途があるのだ」と。

特に印象に残った2章(Ecology)と4章(Information Technology)につき(要約風に)少し書きます。

 

第2章。ヒマラヤの麓に建設されたチャンディガールは自然との共生が重要との観点でマスタープランを見ると、水系に沿ってグリーンベルトが設定されているようには見える。けれどもそれはデザイン上の処理によって、決してエコロジカルにはなっていない。このような近代都市計画を否定する考えも強いが、一方でチャンディガールの街路樹などが育ち、「森林都市」と言えるほどになってきた。意識して自然との共生を進めることが‘Indian Future Modernism’への道である。(このことは『ル・コルビュジェのインド』の中の「もうひとつのチャンディーガル」p75-77でも論じられていたが、本書ではより包括的・実践的に都市と自然との関係を分析している)

第4章。コルビュジェには、チャンディガールでやり遂げられなかった‘Museum of Knowledge(MoK)’プロジェクトがあった。これは文字通り「知識の博物館」で、遡ると、第一次世界大戦後に「国際連盟」が設立された際、そうした政治的な機関とは別に、知識と科学の面から平和な世界を実現するべく構想されたもので、「Mundaneum(ムンダネウム)」などを経て、チャンディガールでMoKを建設することになっていた。けれどもそのようなものを建設すること自体に矛盾を含むものであり、できないままコルビュジェは亡くなり、現在までそれは「未完のプロジェクト」である。この不可能性にチャレンジすることもまた‘Indian Future Modernism’への道かもしれない。

 

題材はチャンディガールですが、近代都市計画のリデザイン全般にもかかわる「待望の書」です。理論的で実践的。資料や文献、写真や図面も豊富に掲載されているので、グッと深く研究するための導入の書にもなりそうです!

 

[関連記事]
『The Modern City Revisited 』

🔖検索 「インド

 

⇒この記事を「世界の都市と都市計画」(■E.「近代都市計画」再読)に組み込みました。