「Mechanisms of metagovernance as structural challenges to levelling up in England

「レベルアップおよび再生法」の裁可(2023.10.26)から半年。施行される規定が徐々に増えてきました。法の目的そのものがある意味大風呂敷で規定も多岐に渡るため、「この法律により本当にイギリスはレベルアップして再生できるのか」のようには問いにくく、また、ぼつぼつ施行されはじめた段階ではさらにそれは難しい。一方、2024年(正確には2025年1月まで)に予定されているイギリス総選挙により与野党逆転との観測が強くあり、そのことも勘案しないといけない。

それではと、この法律の根本にかかわる「レベルアップおよび再生」の主体についての論考を今回とりあげます(Regional Studies 58(4),876-892,2024)。似たものがいくつもある中、特に新しい理論フレームにもとづき、現代世界のガバナンス分析にも迫りうる(従って日本の分析にも役立ちそうな)本論文をとりあげることにしました。あえて結論を短く書くと、「中央政府が地方の財政や政治権限や主体を細かくコントロールしようとするメタガバナンス(ここでは「コリブレーション(collibration)」という概念を充てている)がネックとなってこの法の目的の達成は難しいだろう」というものです。これは以前「白書をめぐる評価」における3人目の論者の考えを、より実証的・理論的に検討した結果となっていますが、ではどういうガバナンスならうまくいくのか、との問いにはあえて答えていません(答えられるものでもない)。

 

ここでは中心概念である「コリブレーション」にだけ注目します。コリブレーションとは、「the process of altering the weight of indivisual modes of governance to adapt to specific context」を表す造語で、イギリス(イングランド)の都市・地域計画にあてはめると、さまざまな主体の創設や補助金配分方法を、地方政府を通さずにその都度編みだして意のままにコントロールしようとしていること。しかし、ガバナンスとしては意のままにコントロールできたとしても「レベルアップおよび再生」のような本当に達成したい目的そのものは達成できないのだと。この論文では、その「達成できない」ことを物語る実証分析が各主体へのインタビューをもとになされています(designing/managing/framing/participatingの4つの切り口から)。

この「コリブレーション」という造語。新藤(2021)によれば(立命館法学399・400号)、この用語はco-libration(共振動)でありcollaboration+equilibrium(協同平衡)であると説明しています。それができればすばらしいと思う一方、実際には申請書作成時間の増大、細切れで単年度の予算、テーマの重複による非効率など、身に覚えのある状態と言えなくもありません。

 

このテーマをめぐっては、他国のガバナンスを分析して「わが国もこういう風にしたらよいのではないか」のような提言のようなものもありましたが、「コリブレーション」の構造やそのやり方を採用している考え方(イデオロギーなど)から政策目的の達成効果を評価しようとするこの論文に大いに刺激されました。

 

 

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