都市は人類最高の発明である

エドワード・グレイザー著(山形浩生訳)、NTT出版2012.9.28刊。
1967年生まれ(ということは今年で45歳)の著者によるこの図書の原題は「TRIUMPH of the CITY」となっていて、日本語のタイトルはこれに副題を足し合わせて訳してあります。都市は私たちを「Richer,Smarter,Greener,Healthier, and Happier」にするというのが本書の主張です。
「本書の多くがジェイン・ジェイコブズの影響を受けているのは明らか」と本人が謝辞で記すように、確かに第1章から第5章はそれ風の著者の考えやいくらかの経済学的成果が本書の幹をなす形で書かれていて興味深く読みました。ただし、7章以降は現代で最もガソリンを消費する都市の象徴であるヒューストンを、規制がなく住宅価格も安くてよい都市の代表例として称賛するなど、フツーの経済学の説明になっていて論旨が一貫しません(一貫していないというより明確さがうすれている)。第6章もパリやニューヨークの高さ規制等を批判しつつ、しかしまあデファンスなどの別の工夫がみられるのでそう悪くもないといった形で現状追認的な記述も目立ち、自分のアイデアを示すもアイデア止まりになっているところからみて、この第6章は「ジェイン・ジェイコブズの遺産と途上国の大都市の未来〜おわりにかえて」のように、論旨が明確なまま本としては終わっていたほうがよかったのではないかと思ったりしました。都市が私たちを「Richer,Smarter,Greener,Healthier, and Happier」にするというものの見方を、ムンバイやリオの例などに対して提言することに徹したならば、経済書というより都市論・思想書としてとてもシャープだったと思われます。というのも、それは「とてもおもしろい考えだね」と共感できる一方、経済学がこの種の課題に確かな理論を与えているようにはみえません。むしろ著者が記すように「本書の多くがジェイン・ジェイコブズの影響を受けているのは明らか」。ジェイン・ジェイコブズの著書が都市論だったように、本書も都市論として(上記のように)読むととてもワクワクする良書だと思います。
[参考]ジェイコブズの議論⇒第4話。その関連⇒第5話第6話第17話。スラムの惑星⇒第8話