MAKERS 21世紀の産業革命が始まる

クリス・アンダーソン著(関美和訳)、NHK出版、2012.10.25刊。
「今期の人員削減は1万人規模」(パナソニック)、「城が消える城下町」(従業員2400人のソニー子会社工場が岐阜県美濃加茂市から撤退するなどの現象を伝える日経記事の見出し)、栃木県矢板市でもシャープ工場を大幅縮小、などの文字が躍る昨今のメディア。
「今こそ、ものづくりの復活を」などという漠とした意気込みにも元気が出ず、「ライフスタイルの構想」や「文化開発」のなかにこそ新しい市場があるなどとする図書の書評(『新しい市場のつくりかた』に関する11月18日の毎日新聞の書評)にも、総論としてはともかく具体的にイノベーティブかというと、評者が「ほのぼのと前向きになれる経営書である」と結んでいることからみてもそうではなさそうとのあきらめムードの自分。
本書『MAKERS』は、このような閉塞状況を突破する「21世紀の産業革命」について書かれた刺激的な書です。インターネットによるデジタルイノベーションが、今や「ものづくり」の方法を根底から覆しつつある、つまり、個人の作り手(メイカーズ)がネットワーク化して直接ものづくり(製造業)を行うことが可能な時代になりつつあるのだとの見立てです。
3Dプリンタ、3Dスキャン、レーザーカッター、CNC装置などがグローバルなネットにつながれ、世界のどこにいても「もの」は製造でき、すぐさまネットを介して販売できる(むしろニーズに対応した「もの」が瞬時に製造されて手元に届く)という新しい産業像です。起業のハードルもきわめて低くなり、誰でもメーカーになれるという世界です。
第41話の『フラット化する世界』でもここまでは描いていませんでした。また、類似のテーマを扱った『民主化するイノベーションの時代』(エリック・フォン・ヒッペル著、ファーストプレイス2006刊)も「メーカー主導からの脱皮」までは考察していたものの「メーカー」そのものが本書の『MAKERS』に転換していくような世界までは描いていません。
本書の流れはむしろ、第60話の「MITメディアラボ」につながっています。
第34話の『豊田佐吉トヨタ源流の男たち』に戻るなら、世界を大きく変えた汎用技術の22番Internetが、23番Biotechnologyや24番Nanotechnologyと結びついて新たなものづくりが展開する世界についても、本書の最後のほうでいくらか描かれています。また、産業流出に悩んできた都市が、こうした新たな「産業革命」によってイノベーティブに復活する可能性なども示唆されています。こうした新しい産業を支える技術が世界で25番目の汎用技術に成長していくのかもしれません。

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