『ユーラシア胎動 −ロシア・中国・中央アジア』

ウランバートル(モンゴル)、ハバロフスク(ロシア)、北京(中国)と、この2年間でこれまでとは違ったパターンの都市をめぐることになった結果、本書(岩波新書(新赤版)1247、2010.5刊)のようなテーマに興味が湧いてきました。近年、これら地域の世界史的見直しがさかんです。
本書では、中露国境線が2004年に歴史史上はじめてすべて確定できたことに関連づけつつ、いくつかの国境線をはさむ両国間の都市(や町)で交易がさかんになり、ユーラシアを横断するかつての文明の道が新たに胎動していることを活写しています。そこに登場するのはハバロフスク、満州里、伊寧、アルマトイなど、普段はあまり耳にしないけれどもどこかで聞いたことがあるような町々。紛争の絶えなかったボーダーに、両者の合意を段階的に積み重ねて<線>を引くことで両者が安定するばかりでなく地域が連携するきっかけとなるというストーリーを、地味ではありますが重要なイノベーションととらえたいと思います。
やや観点が異なりますが、本年10月6日に発刊された『ハルビン駅へ』は、こういう研究者もいたのかと(ニューヨーク生まれのディビッド・ウルフ北海道大学教授)驚きの目で手に取り(私が知らなかっただけなので、ごめんなさい)、畏敬の念でその文献解読に対する姿勢に何度もうなずき、流れるような文章に知らず知らずのうちに引き込まれてしまった書(半谷史郎訳)でした。1860年の北京条約のあと本格的・戦略的に計画・建設されたハバロフスクという都市から川(松花江)をさかのぼったところにロシア人の手によりつくられたハルビンという都市。その、日本にとっても重要だった19世紀の後半から20世紀初頭の「極東」の動きを、関連する各国の一次資料を踏まえてグローバルにとらえつつ、主に「ロシア中国学」の視点でハルビンの都市形成を精緻に跡づけた高質の図書です。原文(英文)の副題である「The Liberal Alternative in Russian Manchuria, 1898-1914 」という言葉に、本書の意義がすべて込められています。