新・観光立国論

2015年6月18日発行、東洋経済新報社。著者は、元ゴールドマン・サックスアナリストのデービッド・アトキンソン
観光立国の基本要素である「気候」「自然」「文化」「食事」のすべてが潜在力としてあるにもかかわらず、日本を実際に訪れる外国人がきわめて少なく、2020年の目標値も2000万人と低すぎる。人口がどんどん減少する日本では生産性の向上や女性の登用など政府が打ち出している施策だけではせいぜいGDPの現状維持にしかならず、かといって移民受け入れには消極的な日本では「短期移民」つまり(できるだけ滞在日数が長く、リピートする)観光に力を入れるべきで、2020年の見込み数はマクロに見積もると5600万人。2030年には8200万人と目標を設定すべきであるとする新・観光立国論。
世界の観光立国をひろく分析するなかから、日本の中でしか通用しない俗説を相対化しつつ真に必要とされ効果的と考える処方を描いています。景観や文化財のありかたや見せかた、日本のもつ資源のグローバル視点からみたときの価値などについて、新鮮な見方(論)が次々に提示されます。

ところでこの「2020年5600万人」という数字。
少し前の記事(補注1)で2015年1〜3月の勢いをもとに出した「2020年5000万人」という数字とだいたい同じです。また、これも少し前の「「London」とはどういうところか」(補注2)で「公園やスクエアだけで「101 THINGS TO DO」くらい軽くできます」と書いたことの裏返しで日本の「101 THINGS TO DO」がどれだけあげられるかをきちんと考える良い機会かもしれません。公園やスクエアは決して外国向けというわけではなくロンドンに暮らす人たちの生活のインフラストラクチャーです。けれどもその価値が世界の多くの人々に共有されているのでは。
とはいえこの本の著者の本国イギリスは「気候」と「食事」の面が弱く、「気候」「自然」「文化」「食事」がすべてそろっているフランスには差をつけられているとの分析。なかなかおもしろい本です。

(補注1)
・街中の外国人(都市イノベーション2020 第75話)
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20150429/1430265520
(補注2)
・「London」とはどういうところか(都市イノベーション2020 第78話)
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20150505/1430825902