ドバイ開墾(5) : パーム・ジュメイラ

不動産開発によりドバイのブランディングを進める「海のナキール、陸のエマール」。ナキールもエマールも政府系のデベロッパーです。まずは、「海のナキール」からその代表プロジェクトをみてみます。
ドバイの都市開発に世界が注目するきっかけの1つ、パーム・ジュメイラ。
「ワールド」に比べればまだ理解可能とはいえ、なぜ、あのような葉っぱの形をした洋上都市を、実際につくることにしたのか?
発想としては、当時70キロしかなかった海岸の価値を最大限高めるために、海岸線を人工的に造形・造成しようと、20倍以上の1500キロに(パーム・ジュメイラ以外のものも含むと思われます)。発想自体は、異次元のためやや戸惑いますが、理解はできます。
地図上で測ってみると、パーム・ジュメイラの直径は5キロ、アブダビ寄りのパーム・ジュベルアリは直径7キロほどです。どれくらいの大きさかというと、晴海や新木場まで含めた東京臨海部がすっぽり収まる大きさが直径5キロ。直径7キロとなるとさらに若洲や中央防波堤埋立処分場の一部まで含めた東京湾の主要埋立地全体といったひろがりです。

「最終的には100以上の高級ホテルと400戸以上の別荘をつくり、商業エリアも備える計画」(『ドバイのまちづくり』佐野陽子著、慶應義塾大学出版会、2009)といわれるこの開発地に実際に行ってみると、パームの幹にあたる部分は、幹線道路とモノレールに沿った高層高密住宅街。地上部にいると、混み合った幹線道路にいる感じです。幹から左右に枝分かれした葉っぱの部分は、1つ1つがゲイテッドコミュニティ。まだ造成中のところもあります。外周円の頂点が観光用高級ホテル「アトランティス」(2008オープン)。宿泊客しかいけないところ、入場料を払えば入れるところ、誰でも入れるところの3段階に明確に分けてあります。
外周円をアトランティスのある頂部から左右に回ると、多数の高級ホテル。建設中のものも多数あります。外周円の先のほうまで行くと、海面越しにマンハッタンのような陸地側の超高層ビル街の景観が圧巻です。

とはいえ、個々のこうした風景は他にもありそうな話。むしろ、海の上に、衛星からも見えるほどのパームの絵を描き(月からも肉眼で見えると解説しているものもある)、それを実際に造成してしまう「凄さ」には圧倒されます。
なお、リーマンショックの際、この開発は「ドバイショック」を引き起こした震源地にもなりました。政府の支援もあり、ここにきてナキールがかなりの利益をあげられるようになったとメディアにPRされています。これだけの開発をするのですから、今後も「ブーム」もあれば「バスト」もあるのでしょう。むしろ、「バスト」のときにどう痛手を小さくするか、どう立ち直れるかが、これからの(も)課題なのだと思います。“わずか一昼夜のうちに海中に没して姿を消してしまった”(神の怒り説もあれば大災害説もある)「アトランティス」という名前が、レジリエントであることの大切さを自らに対して訴えているようにも思えます。

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・中央防波堤埋立処分場 (都市イノベーション2020 第91話)
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20150618/1434600095