Sharing Cities

副題は「A Case for Truly Smart and Sustainable Cities」。Duncan McLaren and Julian Agyeman著、MIT Press、2015刊。
1月3日の日経新聞「この1冊」欄で『限界費用ゼロ社会』(ジェレミー・リフキン著、柴田裕之訳、NHK出版、2015.10.30刊)が根井雅弘教授により紹介されました。見出しが「シェア社会に向けた大胆な未来予測」。ところが気になることに、この書評の最後に、以下のようなコメントがありました。
「興味深い指摘は多い。だが、大胆な未来予測を支えるのがほとんど限界費用ゼロ革命のみというのはやや強引の印象はぬぐえない。」
「協働型コモンズを実現するのに不可欠な「共感」が、現段階で普遍的な現象として観察できるわけでもない。」
かなり気にはなったのですが、その前段に書かれている“限界費用ゼロ”革命の解説をみると、本ブログで2015年の最初の記事にしたピケティの『21世紀の資本』に匹敵しそうな重要な「何か」について書かれているはずだと思い、すぐに読むことに。
500頁に迫る日本語訳がきちんと読み取れなかったのか、はたまた根井氏の気になるコメントが先入観となりすぎたのか、確かにおもしろい内容ではあったものの、何かピースが足りないのでは、、、と自問していると、年末に注文した標題の本が届いたとの知らせを受けたのを思い出しました。

ここからが本題。
『Sharing Cities』はその副題にあるとおり、「スマートシティー」や「サステイナブルシティ」だけでは漠としすぎていて21世紀の新しい価値が不明瞭である限界を、「sharing」という近年注目される価値とからませることにより乗り超えようとした図書です。何か結論が得られるという類のものではありませんが、以下のいくつかの点が注目されます。
第一。これまで断片的に語られたり事例が紹介されてきた「sharing」について、「sharing paradigm」という包括的フレームを設けて、全体像を示しています(15頁のFigure0.2)。縦軸がcommercial/communal軸、横軸がinter-mediated/socio-cultural軸です。横軸を少し解説すると、第三者が介在してサービスを提供することで成り立つような形態がinter-mediatedタイプ。社会文化的に自ら生み出すものがsocio-culturalタイプです。この分類を使うと、最近世の中で出回っている多くの議論はcommercial×inter-mediated象限の「sharing economy」に関するもの。『限界費用ゼロ社会』の副題は「THE INTERNET OF THING AND THE RISE OF THE SHARING ECONOMY」となっていて、この部分の議論が中心と一応は位置づけられます。『限界費用ゼロ社会』の後半では「協働型コモンズ」が中心となる“大胆な未来予測”が“やや強引”に語られるので、これを「sharing paradigm」の中に位置付けると、何が語られているのか/いないのかが見えてきそうな気がします。
第二。第一の縦軸/横軸上には多様なサブ概念がちりばめられて(位置づけられて)いるばかりでなく、それぞれに世界中の具体的な先進事例が紹介されています。
第三。都市を扱っています。基本的には2軸4象限のなかの異なる性質をもつ6都市(サンフランシスコ、ソウル、コペンハーゲンメデジンアムステルダムバンガロール)の「sharing」をめぐる取り組みを描きつつ、さらに各テーマを掘り下げていくという構成です。たとえばサンフランシスコの位置づけは「sharing consumption」、メデジンは「sharing society」などですが、個人的にはアムステルダムの事例をもっと知りたくなりました。

「sharing」を通して世界中の都市がもっと社会的に公正で、環境的にサステイナブルで、もっとイノベーティブになりうると信じるにもかかわらず、その重要性が断片的かつ偏ってしか語られていないために包括的なビジョンを描き出すことにしたとされる本書。可能性があると同時に課題もまたたくさんあります。その「可能性」に注目して、本年最初の「都市イノベーション開墾」とします。

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