『2050 日本復活』

「自動運転タクシー試走 シンガポールベンチャー」(毎日新聞2016.8.27)、「東京都、外国人家事代行を解禁」(日経新聞2016.8.28)などと、ほんの少し未来を予感させる記事が断片的にメディアに頻出しています。
けれども、「2050年」の日本をトータルに描き出すのは意外にたいへんです。というのも、あまりに遠い将来となるとせいぜい人口などの予測や新技術の予言(または期待(のリスト))くらいしかできず、リアルに描こうとすると今度は、現在のトレンドに沿った“その先”くらいしか描けません。

本書の正確な日本語タイトルは「近未来シミュレーション2050 日本復活」(東洋経済新報社、2016.8.4発行)で、原文タイトルは「HOW JAPAN CAN REINVENT ITSELF AND WHY THIS IS IMPORTANT FOR AMERICA AND THE WORLD」。今朝の朝日新聞に書評が出ていて、それは本書の要約になっているので正確にはそちらを見ていただくとして、ここでは、2050年をシミュレートした本書のおもしろさをいくつかあげます。

第一。著者は、日本の良さも欠点も知り尽くした論客(クライド・プレストウィッツ)で、初来日した1965頃頃を振り返りつつ、その後の日本の変化を押さえています。
第二。一般的にみて、こうした予測モノは、「自動運転」「スマートシティー」などの技術的予測に陥るか、文明論のような大風呂敷になるか、単なる要素の羅列にとどまるかになりがちですが、本書は「日本の2050年」を、国際的位置づけも踏まえてトータルに描き出せていると感じます。
第三。その理由の1つは、「2015年時点の課題」をしっかり構造的に捉えていて、しかも、それは2015年というより、2016年8月時点のリアルな分析にもなっていることだと思います。
第四。それをもとにここでは日本の危機を救うべく、2017年5月に「特命日本再生委員会」が設置されたという設定になっていて、この委員会が課題ごとに世界の先進事例をリサーチしたり政策立案したり、時々失敗したりして、なんとかそれらの実施までこぎつけるという臨場感あふれる内容です。
第五。それらの結果としての日本の2050年の姿が印象深く描き出されます。第三、第四の特長が功を奏して、第二のような結果に陥らず、2050年の都市の姿や生活や社会や国際情勢がバランスよく描かれています。
第六。私たちはその結果を信じるかどうかではなく、1つの「シミュレーション」としてながめることができるので、自分でバックキャスティングして、著者の「シミュレーション」の条件の妥当性をチェックしたり、言及されていないことは何かを考えたりすることが可能です。

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http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20120403/1333416322