検証・2050日本復活(3)スマート化

「都市イノベーション開墾」の視点から「スマート化」をテーマとして抽出しましたが、『2050日本復活』で「スマート化」が占める割合は一見高くありません。むしろ断片的でさえあります。
けれどもよく見てみると、第7章の「エネルギー独立国」はより本質的なところで「スマート化」とかかわっていて、「新・日本モデル」とされるエネルギーシステムのもとで「スマート化」もより魅力的になるととらえられます。

まずは狭義の「スマート化」にかかわる部分をチェックすると、、
2050年の日本は「道路も建物も乗り物も、すべてスマート化されている」(p26)。「彼」が羽田に到着し「飛行機から降りると、彼の荷物を積んだロボットが出迎えてくれる」「都心だけでなくどこへ行くにも、運転手がハンドルを握るリムジンバスやタクシーはいない」「もはや日本では、誰も運転などしない」(同)。「こうしたイノベーションのおかげで、日本では交通事故がほぼなくなり、当然のことながら交通事故による死傷者もいなくなった」(p27)。「ウルトラロープ」の開発・普及に後押しされて東京の高層化が進み、「ドバイの超高層ビル「フルジュ・ハリファ」よりも高いビル群が林立するようになった」(p28)。超高層化により都市空間が効率的に利用されてスマートシティ化の環境を生み、起業家の活動が活発になった、というのがおよその全体像です。
一応「スマート化」的描写にはなっていますが、やはり「一応」です。

けれども、「スマート化」の前段としてのクリーンエネルギー化やエネルギー自立の方に着目すると、なかなか興味深い議論が展開されています。そもそも「エネルギーはこの国のアキレス腱だった」「第二次世界大戦へと突入していったのは、もとはといえば石油の確保に不安を抱いていたからだ」(p187)との認識は、本書の根幹にかかわる重要な部分です。
以下、「検証」の枠組みだけ簡単にまとめます。
日本のエネルギーの自立は、2017年5月に設置された「特命日本再生委員会」の提言による5つのステップにより進められました。結果だけ書くと、全国のスマートグリッド構築のみならずそれがアジア・スーパーグリッドにつながります。国内では海洋エネルギー開発が進むほか、メタン・ハイドレード(こちらは低炭素ではあるが炭素含む)開発も進み、「モンゴル平原の風力発電所から予想外に膨大な電力がもたらされ」(p215)たりもして、「2050年、日本は長年の夢だった低コストによるエネルギー自給をついに実現させた」(p215)。
「最終的には廃棄物から放射性物質がなくなり」とされるIFR型原子炉の話や、「自給」としつつモンゴルから「予想外に膨大な電力がもたらされ」ていること、2050年時点のエネルギーシェアが書かれていないことなど、検証すべき点はいろいろあると思いますが、「2050年」へのシナリオをともかくタタキ台として書いたことに敬意を表したいと思います。