『Urban Planning in Sub-Saharan Africa』

近代都市計画思潮の影響を、誰が主役となって、どのような都市化の段階で受けたかによって、今日の都市をめぐる状況が大きく左右される、、、前回とりあげたラテンアメリカでは、16世紀前半に植民地化された地域が18世紀初頭に独立、その後にヨーロッパの近代都市計画の影響を独立国として受け、20世紀に入ってアメリカあるいは国際建築・都市計画運動の影響が強まる、という段階的推移がみられました。
今回の図書は、19世紀末にアフリカが植民地化されるなかで、既にその頃ヨーロッパで普及していた公衆衛生重視の都市計画が導入され、やがて、ゾーニングやマスタープランといった都市計画ツールが植民都市に適用されて、そのあと1960年代になってアフリカ諸国が独立していく、という歴史過程を扱っています。植民地化から独立まで100年に満たないことから、植民地化がもたらした影響を、断絶(rupture)か継承(continuity)か、という視点から読み説いているのが本書の特徴です。
CARLOS NUNES SILVA編著、Routledge、2015刊。副題は「Colonial and Post-Colonial Cultures」。

16章の構成のうち1,2章が総論。3章に興味深いIFHTP(:現在のIFHP)を舞台にしアフリカの都市・住宅計画について議論した1938年のメキシコシティ会議の分析。4章から12章が、イギリス、フランス、イタリア、ドイツ、スぺイン、ベルギーによるアフリカの分割と都市計画の歴史です。サハラ以南の現在のアフリカ諸都市がほぼすべてカバーされます。13章のクロアチアの章は、フランス植民地独立の際、唯一完全な独立の道を選んだギニアに対するクロアチアからの専門支援の話。14〜16章が相互協力や教育等の話です。

今までほとんどわからなかったアフリカ都市計画の全体像(地中海沿岸のアラブ都市は除く)がその導入の歴史とともに「わかる(きっかけになる)」図書。1つの章だけでもおもしろいものもあり、断片的ですがいくつかあげてみると、、、
第一。第3章のIFHTPの議論、あるいはIFHTPが果たした国際都市計画運動上の役割(と限界)が研究対象としてはかなり興味深いです。
第二。「断絶と継承」という視点が全体を貫いて冴えます。特に、一般的には「断絶」が強調されやすいなかで、エチオピア諸都市がイタリアの一時的侵攻にもかかわらず「継承」を保ったとする第9章の分析が印象的でした。その前の第8章が、アジスアベバに全体主義的イタリア都市計画を適用しようとしてマスタープランが描かれた場面を詳細に描いていておもしろく、その象徴となる1936年プランは本書の表紙にもなっています。
第三。「継続」という意味では、植民地時代につくられた法制度がそのまま独立後もほとんど形を変えずに運用され都市問題がどんどんひろがっていく様子(この部分はあまり実証されていません)も、それが法制度そのものによるものなのか、運用側の問題なのか、都市の状況がそうしているのかをさらに知りたくなります。
第四。総体として、例えば「日本の近代都市計画」がどのようなものだったかを考えるための刺激にもなります。ペリーがやってきて居留地として開港した横浜の都市計画を、こうしたグローバルな視点からもう一度読み直すこともできそうです。また、これはどちらかというと前回のラテンアメリカの首都計画(⇒関連記事)に近いかもしれませんが、明治初頭の東京の都市計画を、国際的近代都市計画運動の文脈の中で読み直すのもおもしろいかもしれません。

[関連記事]
・『Planning Latin America’s Capital Cities 1850-1950』(都市イノベーション開墾 第77話)
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20161026/1477460946