『江戸の都市力 地形と経済で読みとく』

「都市イノベーション開墾」第82話です。
建築・土木系の解説書では空間構成そのものに力点はあるがその政治経済的意味づけが弱い。政治・経済系の解説書では政治経済的解釈や数値には強いが思考が空間化されておらず物足りない。そんななかで本書は、江戸の形成と進化について、あまたある建築・土木系の解説書にはないほどの正確な空間把握を試みつつ、同時に、主要な都市施設についての軍事的・政治的意味や、港を通した大坂をはじめとする全国との経済交流等について、テンポ良く解釈・解説しています。
推測にとどまっている箇所も多いのですが、「地形と経済で」「江戸の都市力」を「読みとく」6章構成のこの図書のうち、特におもしろかった点をあげると、、、
第一。歴史教科書にある京都中心視点ではない、江戸そのものの歴史が通史として書かれていて、特に鎌倉時代以降の記述から、江戸につながる社会経済的・空間的変遷がよく理解できる。
第二。その江戸城下の建設についても、図面上で正確に「従前」「従後」が重ね合わせて理解できるように工夫されており、さらに、歴史を一気に進めることなく、1段階ずつじっくりと空間が進化・変容していくさまが、その意図の読み取りとともにていねいに解説されています。秀吉勢力と家康勢力の江戸におけるせめぎ合いの視点も提示されていてワクワクします。
第三。それらを通して、従来の学説であった渦巻状都市計画などを「合理的な根拠を欠く」と一蹴。「明確なマスタープランがはじめからあって「町割」がなされたのではない」(p73)と、自説が展開されていきます。
鈴木浩三著、ちくま新書1219、2016.11.10刊。

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