“太平洋の真珠”リマ再考

かつて“太平洋の真珠”“庭園の都市”と言われていたらしいリマ。
スペインが当初、メキシコシティとともに「副王」を置いたリマの印象が、訪れてみるととても良く、なぜそのように感じたかについて、印象の良かった5つの要素〜いずれもオープンスペースのつくり方にかかわる〜をもとに考えてみます。

第一。エクスポジシオン公園(パルケ)。ガイドブックには、国内随一のリマ美術館がこの公園にある、との順番で紹介されているものと思われます。この公園はその名が示すように、国際博覧会が1872年にペルーではじめて開催された場所です。その公園の美しさというかみずみずしさ、とりわけリマ美術館側からみたその雰囲気は、これまでに見たどの公園とも違っていました。現在のリマ美術館も、それまでさまざまな用途に活用されていたものを(設計はイタリアの建築家)、リマ市が1961年に美術館として再生したものです。美術館そのものもとても居心地の良い場所です。
以前あげた文献(⇒関連記事)によれば、リマ美術館の北側を通るグラウ通りはエクスポジシオン公園を横切って二分したとなっています。そのグラウ通りは現在ものすごい交通量ですが、地下にはBRT(メトロポリターノ)のターミナル駅があり、地上部もバスターミナル的機能を果たす、いわば副都心にあたる場所。その喧騒をリマ美術館が遮るように建っているため、エクスポジシオン公園が結果的に冴えた感じにみえるのではと思います。維持管理への力の入れようから、この場所への強い思いが伝わってきます。
第二。サン・イシドロ地区のエル・オリーバル公園。近代都市計画で計画されたと思われる近隣の中に線状に整備された憩いの場。うまく周囲に溶け込み防災広場にもなっているその姿は、なかなか日本では見られません。1街区分西側には、人気レストランなどがあるとされるコンキスタドーレス通りが南北に通っているので、その微妙な距離関係により、他にはみられない、この場所らしい用途の立地を促しているようにみえます。
第三。バランコ中心部のコモンズ風公園(バランコ公園)。古き良き郊外の別荘街的な街の中心にある、落ち着きと品格が感じられる小公園で、公共施設等に囲まれた、今でも皆に親しまれている素敵な場所。このような場所は管理が難しく、また、車との共存も難しく、なかなか見られない。車との共存については、次の第四のような工夫がされた形跡があります(ロータリーだった場所の車道の一部をつぶして歩行者環境を良くしている)。大景観をなす太平洋へとすぐにつながるこのような場所が都心からすぐのところにあるのは、リマにとって貴重な財産だと思います。
第四。サン・イシドロ地区でかなり行われている街路空間のリ・デザイン。そのうちパセオ・パロディ通りは、交差する街路の処理も含めてよくできた公園街路。「パセオ」として道路開設時に設計されたのか、後にリ・デザインされたのか不明ですが、かなり良くできた気持ちのいい空間です。補助幹線の交差部の花壇風広場や、車への対応のための街路断面の再構成など、印象としては、町じゅうのあらゆる箇所でできることをすべてやり「住みたい街」にしようとする一貫した方針があるように感じます。かなり気になる取り組みです。
第五。サンマルティン広場。これまでの4つと比べると最もセントロ寄りの美しいヨーロッパ風スクェア(プラサ)。とはいえ旧セントロではなく、19世紀に城壁を取り払ったあとしばらくして計画された幹線道路整備(ニコラス・デ・ピエロダ通り)の際に計画されたと思われる公共空間。第一のエクスポジシオン公園の起こりもそのような時期の都市計画の成果と思われます。

なぜリマの都市計画に惹き付けられたのか。「都市イノベーションworld」的視点で仮説や推論を交えて整理すると、1)「パルケ(公園)」「アベニーダ(通り)」「パセオ(公園通り)」「プラサ(プラザ)」等の空間計画要素が近代都市計画に取り入れられ、インディアス法によるセントロの都市計画のエリアが拡張される際に、それとは異なる(イノベイティブな)都市計画がおこなわれた(両者の関係、(不)連続性も気になるところ)。2)その過程でスペイン風の要素にフランス・イタリア等の要素が取り入れられ、さらにアメリカ都市計画が入る(事業会社もその1つ)。3)そのなかで常にペルー独自の都市が模索された。4)独自の気候・風土・都市住民・計画文化により、独特な魅力をもつ都市が形成され、そうした空間の維持管理、リ・デザインも含めて、リマらしい取り組みがなされている。

[関連記事]
・『Planning Latin America’s Capital Cities 1850-1950』
http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20161026/1477460946

[参考文献]
・中岡義介(1978)「南米都市リマにおける戸外空間とその変容について」『日本都市計画学会学術研究発表会論文集第13号』pp.319-324

【In evolution】世界の都市と都市計画
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http://d.hatena.ne.jp/tkmzoo/20170309/1489041168