産業とりわけ工業に特化した都市が1970年代から80年代にかけて衰退したあと、どのように立ち上がりつつあるのかを報告し合った基礎的テキストブック。アメリカからバッファロー、デトロイト、ミルウォーキー、ニューオリンズ、ピッツバーグの5都市が、ヨーロッパからビルバオ、リバプール、ロッテルダム、ルール地方、トリノの5都市の、計10都市が報告されています。
Routledge、2016刊。編著者はDonald K. Carter。副題は「Lessons from North America and Europe」。
近代化・工業化・産業化という時代の最先端を担った都市の歴史の紹介に続き、20世紀末にかけてそうした機能がごっそり抜けて苦悩する各都市。「Post-industrial」と書かれていると、何か統一的な方向が書かれているのではと思えますが、まったくそういう内容ではありません。サービスセクターや文化・芸術などに力を入れて産業を多様化する、といったレベルでは似ていなくもないのですが。だいいち、まだ成果は「みえかかっている」場合がほとんどです。
むしろこれら10事例で興味深いのは、その文脈や現況、課題の多様性です。例えばバッファロー。この都市は『The Best Planned City in the World』(Library of American Landscape History、2013)という本が出ているくらい、最初の近代都市計画、とりわけパークシステムが秀逸とされます。工業都市からの再生もこうした遺産をどう活かすかがポイントとなりそうです。ミルウォーキーでは、“100を超える”コミュニティ改善組織が街を変えている(re-urbanism)とされます。ビルバオはあまりに有名ですが、州政府と地元自治体、鉄道会社などが連携し市内各地区を連結させるインフラ整備などがあってこそフランク・ゲーリー設計の美術館も効果を発揮しました。『トリノの奇跡』という本が日本でも出版された(藤原書店2017.2.28刊)トリノもまだまだ課題山積。『トリノの奇跡』の第1章の最後でも、「筆者の印象からすれば、トリノのような重工業都市は都市規模が大きく、これだけの大がかりなプロジェクト群を実施してもなお、ブラウンフィールドや未利用地は多く残っている」「社会的包摂はトリノにおいても解決をみていない重要な課題である」「これまでの成功の要素であったものがもはや新しくはなく、次のステップが見えにくいものになっている」と、この都市の現実をしっかりとらえています。
【in evolution】世界の都市と都市計画
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