『インバウンド再生』(京都と都市イノベーション(その7))

本格的な歴史文化芸術国際都市論です。自分が「京都と都市イノベーション(その1)~(その6)」を通して体感してきた“京都”という稀有の国際都市の「国際性」というものがどのような経緯で磨かれてきたかについて、先行したイタリアでの経緯に先導されつつも、その記述を上回る分量で論じた熱き思いに溢れた書。

宗田好史著。学芸出版社、2020.11.14刊。

 

2012年暮れに「京都を通して日本の歴史を辿ろう。特に関東にいるとピンとこない“室町時代”というものを知ろう」と、(きわめて単純に)室町通を歩くことからはじめた自分のようなビジターが、やがて単なるビジターというよりリピーターとなり、さらにリピーターというより京都という町が自分の一部になっていく(遠くにいながら自分もそこに暮らしていると思えるようになる)過程が、マクロな観点から描かれていて、とても勉強になりました。たまたまこの本の対象は京都ですが、どの都市にも通じる基本的思想・哲学・実践的プロセスが論じられていると感じました。

 

話は飛びますが、今、『麒麟がくる』では本能寺の変へと至る明智光秀の心の揺れが少しずつ増幅しつつあり、天皇、将軍、信長、その他の役者らの間の複雑な葛藤が描かれ佳境に入ってきました。もちろん舞台の大半は京都。崩壊した御所の塀の修復や戦乱で傷ついた庶民の手当てなどの諸材料を通して室町末期の京都が印象づけられます。

同時に実は、『太平記』が週に1話ずつアーカイブに付け加えられていて、今、足利尊氏が天皇の意思に反して鎌倉に戻ってきたところです。室町幕府が開かれるときの天皇、将軍(候補)、京都と鎌倉の関係のせめぎあいが丁寧に描かれています。

先日たまたま、よく通る鎌倉の長寿寺が公開されていたので入ってみると、10月の崖崩れで足利尊氏らの墓が被害に遭ったあとで修復に向け準備中でした。この長寿寺はかつての足利尊氏邸だったと説明されています。

 

世界遺産には登録されませんでしたが、鎌倉も歴史文化芸術国際都市といえるはずの都市です。天皇がいた京都を太陽とすると、武家の都鎌倉は月のような都市なのかもしれません。その月のような都市の意味が人々の心に響くようになったとき、鎌倉も世界の遺産となるのでしょう。