『災害とたたかう大名たち』

『藩とは何か 「江戸の泰平」はいかに誕生したか』(中公新書2552、2019.7.25刊)の続編ともいうべき、重要な本です。

藤田達生著、角川書店2021.4.23刊。

 

「「日本の都市が国土レベルの配置とネットワークを伴って誕生した都市イノベーションそのもの」といえそうな重要な書」とした前著を、「災害とたたかう」との視点を加えることによって、さらに一歩確かなものにした感があります。

これではわかりにくいので、より主観的におもしろかった点をいくつかあげます。

 

第一。これが最もおもしろかったのですが、江戸初期の城下町(および「藩」という経営体)の建設は、その前の戦国時代に疲弊した旧城下町等の復興計画としてなされたとの観点から実証的な分析がされている点です。『災害とたたかう大名たち』には確かに地震災害や飢饉や疫病とどう闘ったかが語られているし、それらはどちらかというと2020年以来のパンデミックと重ね合わせて議論されている風もありますが、やはり本書の核心部分は近世都市成立の部分ではないかと思います。

第二。幕末に近づくと災害とたたかう力も弱くなり、近代化をとげた雄藩が力をもってやがて幕府は崩壊した、との議論もなされてはいますが、やはりこれもメインではなく、「預知思想にもとづけば、天下から預かっている藩の災害復興は藩主の当然の責務」と考え行動する社会基盤をつくりあげたことを諸資料を通して示したことに意義があると思います。預知思想については『藩とは何か 「江戸の泰平」はいかに誕生したか』において既に議論されていますが、本書はそれに災害を重ね合わせて議論している。ただしこの点についても印象としては、「災害とたたかう大名」の側面よりも、新しい城下町という空間が、農村部も含む「藩」という地域の中で安定した役割を果たすために、戦国的身分秩序からいかに近世的秩序へと進化したかの印象が強く残りました。

第三。『藩とは何か 「江戸の泰平」はいかに誕生したか』でもそうでしたが、本書でも藤堂藩の主要城下町が主な題材となっていて、かなり具体的で、なかなか他ではこうはいかない豊富な地域史が分析されていておもしろいです。個人的には(あまり有名ではないかもしれませんが相当おもしろい)伊賀上野という城下町に数年前より注目していて、その伊賀上野の戦国時代から近世城下町への変遷が詳しく分析されているので特上の資料となりました。p94には戦国から近世に移る際に城郭の位置が変わった全国の33の事例が示されているので、各地を回る際に、現代へと連なる近世城下町がどのように誕生したのかをたどることも楽しみに加えられそうです。

 

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【In evolution】日本の都市と都市計画
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