レジリエンス あらゆるシステムの破綻と回復を分けるものは何か

アンドリュー・ゾッリ+アン・マリー・ヒーリー著(須川綾子訳)、ダイヤモンド社、2013.2.21刊。
本書は、副題に「あらゆるシステムの」とあるように、レジリエンスという観点がさまざまな分野に共通する重要な規範になりうることを論じた意欲作です。本書のレジリエンスの定義は「システム、企業、個人が極度の状況変化に直面したとき、基本的な目的と健全性を維持する能力」。
多様な分野・場面の分析のなかから、「接続しているが結びつきは強すぎず、多様であるが拡散しすぎず、それが有益であるかぎり他のシステムと連動するがむしろ有害と見れば自らを切り離す」といった要素がちょうどよく整った場所にレジリエンスは育つと一般化しています。
とはいえ、本書がおもしろいのはそうした一般化よりも個別の事例からの読み取り。例えば第8章「コミュニティを支える「通訳型(トランスレーショナル)」リーダー」に出てくるパラオのノア・イデオン氏。観光化により対立するようになった地元漁師とダイバーの間に入り、潜在化していた地域のレジリエント力に働きかけてよみがえらせつつ、さまざまな次元で創造的に共生関係を築いています。
かなり飛躍しますが、先週23日に認定された「宮城県石巻市桃浦地区水産業復興特区」(文1)のことを思い出しました。地域協議会の議事録(文2)をみても、最後の最後まで県と漁協の考えは平行線のままです。しかし、この議事録をよく読むと、また、『漁業と震災』(濱田武士著、みすず書房2013.3.11刊)第5章を合わせ読むと、桃浦カキ生産者合同会社と地元漁協とのスリ合わせ過程のあちこちでレジリエンスの力が働いて(生まれて)いるように思えます。
「いかなるツールも「正しい」決定を強制することはできない。それでも、困難なシナリオから派生する事態をコミュニティのメンバーが共に検討したとき、レジリエンスが育つのだ。ある一つの混乱について議論する経験を積んだコミュニティは、将来の混乱に対して準備万端の構えで臨むことができるだろう。」(本書p364より)

(文1)復興庁HP http://www.reconstruction.go.jp/topics/232523.html
(文2)復興庁HP http://www.reconstruction.go.jp/topics/20130423_07_betten5.pdf