『ICONIC PLANNED COMMUNITIES AND THE CHALLENGE OF CHANGE』

かつて理想都市として計画され実現された「planned community」が、その後のさまざまな困難にもかかわらずそのスピリットを発揮し今でも輝きを失っていないとしたら、やはりそのオリジナルの都市計画は優れたものであったといえるし、「スピリットを発揮し今でも輝きを失っていない」その秘訣に学びたいと誰もが思うはずです。

2019年にペンシルバニア大学出版会から出されたこの本は、世界の中から19の「planned community」を選定してケーススタディーした貴重な、そしてワクワクする本です。

MARY CORBIN SIES, ISABELLE GOURNAY, ROBERT FREESTONEの3人による編集。

序章と最初の3つのケーススタディーを読み終えたところで、この本のおもしろさと意義を綴ってみます。

 

第一。著名な「planned community」なので各事例そのものは分析対象というよりも考察の「前提」のようなものです(とはいえ、これまで知らなかった事例もあるため事例そのものにも興味が湧く)。やはり本書の見どころは「その後のさまざまな困難にもかかわらずそのスピリットを発揮し」の部分。ここがかなり重要です。特に歴史的な著名な事例を扱う場合、どうしても「せっかく著名な〇〇氏が設計したのにその精神が生かされず残念だ」といった批評になってしまいがちですが、本書では、100点満点ではなくてもジワジワとそのオリジナルのもつ価値を維持増進しようとする力に注目しています。この力に着目することは、すなわち、持続的な都市の進化の秘訣を探ることです。

第二。19ある事例の最初の事例「ニューラナーク」(第1章)がとてもよかったです。超有名な「planned community」だったこの事例は、その原動力だった工場が閉鎖されると衰退。廃墟のようになり一時は取り壊されることにもなったのですが、「なんとかしよう」という力が湧き上がり、次第に大きくなり、1993年に現地を訪れたときにはビジターセンターもできていてそこで説明を聞きました。まだまだリノベーションに着手したての建物も残る中、谷あいのその場所の独特な雰囲気もあいまって、「おお、都市計画の聖地に来たんだ」と感動したのを覚えています。やや主観的になってしまいましたが、章ごとに年表も整備されており、「その後のさまざまな困難にもかかわらずそのスピリットを発揮し今でも輝きを失っていない」ことが縷々語られています。「ニューラナーク」の場合、オリジナルの用途の多くは転用されているのですが、それでも「ニューラナーク」は今でも生きた都市なのです。

第三。「田園都市」第一号のレッチワースは第3章に出てきます。「レッチワース再訪」で四半世紀ぶりに訪れたレッチワースが百年経っても持続的に「生きた都市」であるととらえたことを書きましたが(2018.1.23)、この3章ではさらに、実はさまざまな開発計画が持ち上がっていてその都度なんとかそれらを抑制しようと「精神」が発揮されていることが、まだ未解決のものも含めてリアルに語られています。

第四。「さまざまな困難にもかかわらずそのスピリットを発揮し今でも輝きを失っていない」となるためには、実際、「スピリット」だけではダメです。その物的状態を保全するための都市計画や、老朽化するレガシーを修繕・再生するための資金や、それをマネジメントする体制などが必要です。事例により「スピリット」とそれら諸々のものとの組み合わせや順番や重みはそれぞれと考えられますが、それぞれの事例でどうとらえられているかを知ること自体が楽しみです。

 

まだ19章のうち最初の3章を読んだだけです。日本の田園調布も中ほどに出てきます。1980年代のニューアーバニズムの「イコン」も出てきます。本が重たいので、一度にたくさんは読めませんが、これからが楽しみです!

 

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・『The Modern City Revisited』

https://tkmzoo.hatenadiary.org/entry/20120410/1334039856

 

【in evolution】世界の都市と都市計画
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