『「京都」の誕生 武士が造った戦乱の都』 (京都と都市イノベーション(その8))

『平安京はいらなかった』の続編ともいえる、同じ著者による論の展開です。桃崎有一郎著、文春新書2020.3.20刊。いくつかの要素(特に武士の起源の解明と京での進出の経緯)を除くと、また、独特な論の立て方を除くと、近年盛んな中世京都研究の成果と方向性は似ているので(現在、『京都の中世史』の最終巻の発行を待っているところ(⇒関連記事)。既に刊行された第1~6巻において幅広い考察がなされてきた)、本書に刺激を受けつつ少し視点をずらして(というか伸ばして)京都という都市の柔軟な進化による尽きない魅力について少し綴ります。

 

最近、京都市の南西側に隣接する向日市(むこうし)に縁ができ、その向日市の目の前に鳥羽や伏見がひろがっていることに気付きました。さっそく、承久の乱(NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』でもうすぐ起こる)や幕末の鳥羽・伏見の戦いでの拠点ともなった城南宮付近を歩くうちに、「京都のはずれ」ともいえるこのあたりに、未来の京都の進化のポテンシャルを感じるようになりました。

『「京都」の誕生 武士が造った戦乱の都』ではこのあたりに造営された「鳥羽殿」についても少し突っ込んで語られているほか、白河への拡張、六波羅の開発、八条一帯の開発の経緯などを「武士が造った」視点から描いています。読み物としてはおもしろい。おもしろいのですぐに読み終わってみると、ふと、他の京都中世史でも語られている同様な京都の進化を「(さらに通史的な)京都の進化」の観点からみるともっとおもしろいのではと。仏教色が強くなってしまった平城京を逃れてある意味ピュアな「日本国の中心」を建設しようとした平安京だったがゆえに、その後その周囲に付け加えられたさまざまな要素がそれぞれの時代を反映しながら京都が進化していく。お手本にした中国の都城とは異なり城壁をもたなかった(つくらなかった)こともあり、あまりよろしくない土地は不人気で開発されず、平安京の東、北、そして西の「余白」は時間をかけて随分発展した。ある意味現在のグリッドパターン都市が融通無碍に盛衰するのと同様に、シンプルでピュアな(そしてきわめて秩序立った)平安京の都市計画がその後の進化盛衰の可能性を大きくした。(『「京都」の誕生 武士が造った戦乱の都』ではその入口の平安末期までの記述でほぼ終わっており、その後についても「武士が造った戦乱の都」であることを強調しているのですが、、、)

 

最近、京都は東も北も西も飽和状態となり、人口流出が続いているのを課題ととらえているようです。マスタープランも改訂され、直近では用途地域見直し(主に緩和)が話題になっています。京都はこれからどのように進化していくのか? 興味は尽きません。

 

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『鎌倉殿の13人』を通して見る日本の中世の都市・地域・国土システム

 

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【in evolution】日本の都市と都市計画
本記事をリストに追加しました。(武士の起源の解明と京での進出の経緯、および地方展開の部分に着目して)
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