ロンドンOxford Streetに建つ歴史的建造物の再開発計画が大臣により却下されました (その4 : 大臣の決定は誤りとの判断が下されました)

ロンドンの繁華街における再開発計画を大臣が却下したことを、M&Sが不服として高等法院に訴えていた重要案件について、2024年3月1日に高等法院の判断が示されました。ほぼ全面的に大臣の誤りを認めるもので、国の対応にもよりますが、なかなかこの判断を覆すことは難しいと思われる内容です。(⇒資料へ)

M&Sは6つの理由(「Grounds」と表現される)で自らの開発計画が却下されてしまったことを不服としています。

結果は、理由1~4がすべて大臣の誤りとし、理由5も大臣の誤り、理由6は却下としました。理由1~4が決定的なことは「I will quash the decision on the first four Grounds」との表現に示されています(第124パラグラフ)。理由6は歴史的環境に対する開発インパクトの分析方法に関するものですが、今回の判断の中では大きい要素ではなくかつ却下もされているので、ここでは、(その2)の「却下の理由づけ」のところで予想していた論点との関係で、理由1~5(特に理由1~4)整理してみます。

 

「1つは、「第五」のところで大臣の権限にもとづく重みづけが正当化されていますが、本当に都市計画法の運用においてここまで重みを大きくして判断したことが適切であるかどうかという点。」

とした部分は、理由1と5に関係します。

理由1は、国の都市計画方針であるNPPFの第152パラグラフの解釈エラーですが、エラーは明白であるとされました。一般論としてゼロカーボン社会の実現のために既存建物のリユースなどをうたっていますが、特定はしていないのでこれをもって開発不許可とするほどの根拠とはならない。理由5は理由1に比べれば各論的なもので、「ロンドン計画」の政策SI 2Cは操業段階のカーボン政策であって、建設段階のものではないのにそれを誤って解釈しているなどの議論になっています。

 

「2つめは、「第二」「第三」のところで代替手法が検討されていない(ようである)ことをもって「インスペクターの結論を採用するのは安全とはいえない」としている部分で、果たして開発計画の申請の際に、都市計画法(等)でそこまで厳密かつ客観的に代替案を検討せよといっているのかとか、実際に検討したかどうかの判定が適切になされたかどうか(申請者は本当はちゃんとやっていたことを示したのにきちんと取り上げてもらえなかったとか、そもそもそうした証拠の提示は求められなかっただけで実際には検討していたなど)。」

とした部分は、理由2に関連します。

ここでは特に、「インスペクターの結論を採用するのは安全とはいえない」と言っているのに「SoS(大臣) does not explain on what basis he disagree with IR13.70.」。IR13.70はインスペクター・レポートの当該部分で、高度な経験をもつ審査官の判断を採用しないのならなぜそうなのかをきちんと開発者が理解できるように説明しないといけないとしました。

 

「3つめは、「第四」に関連する経済的側面。1つめも2つめも結局「環境」、なかでもゼロエミッション政策に大きな重みが与えられるがゆえの判断であるのに対して、ロンドンの一等地での経済活動の振興の観点にも十分な重みが与えられるべきであって(マークス&スペンサーがそこにとどまるかどうかという次元の問題ではなく)、「重み」のバランスが適切ではないのではないかとの議論。」

とした部分は、理由3と理由4に関係します。

理由3は、「公共の利益」と「ヘリテージへの影響」のバランスについての誤りです。理由4とも大きくかかわるとされ、その理由4は、開発が不許可となってもOxford Streetのvitality とviabilityには悪影響(harm)がないとする根拠が無いことについてです。

3と4とは大きく関係しており、もし、今回の開発が不許可になったことで何も開発が起こらなかった場合にはとても大きな公共利益が損なわれるのに、判断のバランスを誤ったとされました。国側の開発不許可理由は「この開発がダメになったって、こんなに繁華な1等地なんだから何かがそのあとを埋めるはず」とされましたが、これが根拠無しとされました。

バランス論なので、理由3と4だけでは弱い面もなくはないのですが、やはり、理由1と2がペアとなって、都市計画の正当な運用を逸脱していることが大元にあり、さらに、それにしても公共の利益が損なわれないというのならそれくらいエビデンスがいるでしょ、という構成と理解しました。

 

[関連記事]

(その1) (その2) (その3)

 

[資料]

https://www.judiciary.uk/judgments/marks-and-spencer-plc-v-secretary-of-state-for-levelling-up-housing-and-communities/