『The Value of Everything』(都市は進化する187)

本年1月1日のNHKBS1スペシャルに登場したマッツカート教授(ロンドン大学UCL)の『ミッションエコノミー : 国×企業で「新しい資本主義」をつくる時代がやってきた』(NewsPicksパブリッシング、2021.12発売)を翌日読んで、もう少し理論的で突っ込んだ議論がないかと注文した『The Value of Everything』 (Penguin Books,2019(元本は2018))をなかなか読み進められず、しばらく放置していました。とはいえ本ブログの2月13日の記事において「テクノロジーそのものが問題というよりそれに付随する産業の変化により特定の企業等に利益が集中する問題です。最近、「本当にこれらのテクノロジーは価値を生み出しているのか?」について新たな理論を提起しているマリアナ・マッツカートに注目しています。これらテクノロジー企業は価値を「創造している(creation)」のではなく「抜き取ってる(extraction)」だけなのだと。」と、まずは書き綴っていました。

あれから9か月。「新しい資本主義」の内容も方向もまったく見えないまま2023年もおわりにさしかかり、2023年中にはなんとかとしようとようやくその気になりさきほど読み終わりました。ピケテイの『資本とイデオロギー』に並ぶ、ある意味超える、「新しい資本主義」提起の書です。副題は「Making and Taking in the Global Economy」。

 

ここでマッツカートの作品を10年分並べてみると、、、

2013 The Entrepreneurial Stste ⇒『起業家としての国家』(2023.4)

2016 Rethinking Capitalism (共著)

2018 The Value of Everything

2021 Mission Economy ⇒『ミッションエコノミー』(2021.12)

2023 The Big Con (共著)

 

(やや想像も含みますが)現時点でマッツカートの考えが最もまんべんなくまとめられているのが『ミッションエコノミー』で、(結果的に、)最初に読んでよかったと思います。2013年の訳書は今年出ていますが2013年以降の作品において発展している可能性があります。2016年と2023年のものは共著であるため、残る2018年の『The Value of Everything』が(読んでみると)最も理論的かつ精緻に現代資本主義のメカニズムを深く描写しつつ政府の価値創造の役割を加えた「新しい資本主義」について第一歩を描き出した重要書ととらえます。

「value」とは何か、誰がそれを生み出すのかを根本からとらえ直そうとする意欲とエネルギーに満ちた書です。個人的には第6章「Financialization of the Real Economy」と第7章「Extracting Value through the Innovation Economy」に最も迫力を感じました。第8章の「Understanding Public Sector」は2013年の書のテーマを引き継ぎつつ第7章までの枠組みに位置付けたものと思われます。(第1~5章が「value」の歴史編で、第5章の「The Rise of Casino Capitalism」に到達。)

ピケテイの『21世紀の資本』『資本とイデオロギー』になかった視点と分析力・構想力・構築力をもつ希望の書です。都市計画とも直接かかわる、これからの「価値創造」とは何かを考える手がかりとなる書だと思います。

 

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