『中世都市 社会経済史的試論』

「ヨーロッパ中世都市成立史の不朽の名著」とされるこの本(1927刊)を、先人たちはどのように読んだのだろうか?

アンリ・ピレンヌ著、佐々木克巳訳(1970)。講談社学術文庫2526、2018刊。

学術書というより、中世史家である著者(1862年ベルギー生まれ)がアメリカのいくつかの大学で行った講義をとりまとめた試論。8章からなるこの図書の前半4章に特に惹き付けられました。西ローマ帝国滅亡以後、中世都市が花開くまでの「間」のヨーロッパ「都市」の進化過程の記述が魅力的です。「都市イノベーション・next」的というより「都市イノベーション・world」的視点でいくつか書き留めます。

 

第一。地中海での交易は西ローマ帝国滅亡後も引き継がれてしばらくの間それなりに維持されていたものの、地中海がイスラム勢力により取り仕切られるようになると海港都市も衰退。そうして商業の出入口が衰退すると後背地でできるのはせいぜい自分のところで食っていくための閉鎖的・閉塞的な農業となり都市も衰退。特に9世紀末頃がどん底とされます。しかしその後の十字軍などにより(陸地の支配権奪還には失敗したが)西ヨーロッパが制海権(制海力)を取り戻すことによって交易が10世紀以降次第に復活。商業も盛んになる。

第二。ここまでであれば『発展する都市 衰退する都市』でもコンスタンチノープルがヴェネツィアの成長にいかに貢献したかなどの形で詳細に記述されていますが、ピレンヌでおもしろかったのはここから先。当時の中心都市Aと交易することで別の場所に都市B(たいていは海港都市)があらわれ、成長する。都市Bの影響で今度は内陸部の都市Cがあらわれ成長する、そして、D、E、Fと展開して、ついには、ヨーロッパの北(たとえばブルージュ)からの内陸への影響と、南(たとえばヴェネツィア)からの影響が内陸でつながってついにはヨーロッパ全体が地域として活気づく、と、話を次々とつなげてゆくあたりは、少なくともおよそ100年前の刊行時点ではかなり大胆なストーリーだったはずです。

第三。『発展する都市 衰退する都市』もそうですが、『都市の創造力』『ハンザ 12-17世紀』『イブン・バットゥータと境域への旅』 『ヴェネツィア 東西ヨーロッパのかなめ 1081-1797』などとも連続性が出てきて、都市というものが進化・創発しながら連続的に盛衰する(特に「盛」んになる)さまがわかってきます。

 

【in evolution】世界の都市と都市計画
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